水道が語る古代ローマ繁栄史(第三章)

第三章 七つの丘の町と称され、起伏に富んだ首都ローマ全域に、どのように動力もなしで給水できたのか ローマ水道の市内給水の話

現代の浄水・送水設備は各所にポンプ圧送するが、ローマ時代は重力による自然硫化しか手段がなかった。このため、各設備の工程の関係が非常に重要であった。

 

首都ローマの市内給水の方法の記録が、ウィトルーウィウスの「建築書」やフロンティヌスの「水道書」に残っている。これらの記録は紀元前1世紀後半および1世紀末に出版されたと言われている。それ以降の記録は、碑文等に断片的にしか存在していない。

 

フロンティヌスは水道施設の数と各施設への給水量を調査して記録を残した。給水量は、

・皇帝用に24%

・個人用に44%

・公共用に32%

 

水道の建設完成年が新しくなるほど、市内到達場所の標高は順次高くなり、市内全域に給水できるようにしている。

 

古代ローマ時代、沈殿槽でどのように流水中の不純物を除去したのだろうか。現在のように、浄水場で採用されている薬品により不純物質を凝集させ、粒径を大きくして沈殿を促すという方法はまだ発明されているはずもない。

流水中の不純物質は、粒径や比重が大きければ、若干流速が速くても沈降する。そこで、流水を滞留させたり、流速を遅くしたりすることにより不純物質の沈降を促進し、沈殿させ、沈殿物を定期的に除去する方策を発明していた。

この時代にカステルムと呼ばれる、貯水・分水機能を併設しているもの、あるいはそれぞれ単独の機能の設備があった。

 

給水管路の材料

・江戸上水では木樋であった

ウィトルーウィウスは、築いた溝、鉛管、陶管と書いている

陶管は、帝政期以降は耐久性の問題のため、灌漑用にしか使われなくなった。

鉛管については、鉛管内壁に皮膜ができることにより、問題はないとの見解になったようである。

耐久性の優れた鉛管が、古代ローマ水道の主流になっている。

鉛管製作は手作業であった。形は少しいびつな洋梨型である。

鉛管は木樋に比べて耐久的なだけではなく、溶接した鉛管を使用すれば、内部の流水に圧力をかけ、高所に配水できる。

ポンペイの給水栓のように、給水管を立ち上げ、蛇口を介して貯水槽に給水できたのだ。江戸上水のように井戸から釣瓶で水を汲むことに比べ、作業が大変に楽である。

ちなみに鉛管より優れた鋳鉄管の出現は、鋳鉄が大砲に使用された14世紀以降となる。

 

古代ローマには、水を止めるための蛇口や分岐管はあったのだろうか。それが驚くべきことに、すでに水道本管から蛇口に至る途中で、分岐器具や水量調節弁が使用されていた。

 

フロンティウスの時代、水道料金の徴収は、貯水槽に取り付けるノズルの寸法で決定した。この時代に流量計はないので、流速は一定と仮定して、流量の把握はノズルの面積で行った。

 

水道管理者として最も大事なことは、現状の把握である。計画に対する現状把握、それを元にした改善の実施が必要不可欠と言える。これはいわゆるマネジメントの基本であり、それをフロンティウスは実行した。なぜ実行できたかというと、彼は測量技術に精通していたからである。すなわち、測量技術によって現状把握をしたのである。

水道管理になぜ測量技術が必要であるかといえば、「測量」とは字が示すとおり、距離や位置や大きさ等の量を測る技術である。したがって

・全ての構造物の位置・形状・大きさを把握できる

・不良箇所の位置と不良の程度、不良の頻度を把握できる。このことから不良の傾向、原因が究明でき、対応策を立てることが可能となる。

・水道の取水量・送水量・使用量を把握することにより、漏水・盗水量等が分かり給水計画の見直しが可能となる。

 

地下は温度変化が小さく、地下水路には温度変化による損傷は少なかった。

一方、水道橋は夏は高温、冬は低温にさらされ、内部を流れる水は一定温度である。このため非常に大きな温度差が発生し、コンクリート構造物や防水モルタルにたびたび損傷をもたらした。特に首都ローマ全域への給水を目指し、高い標高を保つための水道橋群の管理は大変であった。その理由は、水道橋が長大構造物であったからである。コンクリートの構造物は温度 1度の上下で10万分の1伸び縮みする。水道橋の長さが1km あり、30度の温度差があれば、30cm の伸縮が発生する。この伸縮量を吸収するため、現在では伸縮継手があるが、古代ローマの時代にはまだあるはずもなく、コンクリートや防水モルタルにひび割れが発生し、水漏れの原因になった。 

クラウディア水道の水道橋は延長が14kmもある。最上階の水道管路部分は温度で伸縮するが、大地に固定されている基礎部分は不動である。従って、冬季に水道管路が縮もうとしても、縮むことができないので、ひび割れが入ってしまうのである。

 

クラウディア水道