ぼくはサイード③

翌日、午後3時、ヨウコに誘われて学校を出る。
彼女と一緒に、カルチェ・ラタンのサン・ミッシェル通りの緩やかな坂道を下り、セーヌ方面に向かう。
シテ島の手前で、左に折れ曲がる。どうも警視庁のそばには近寄る気がしない。
ブキニストのそばを通りながら、一番古いくせに、名前だけはポン・ヌフ(新しい橋)という橋にたどりつく。
国語の授業で習った、昔のパリ市民が残したフレーズを思い出す。
「パリのどこどこの場所は別のどこどこの場所から遠いのかと聞く農民たちに、パパは答える「ふん、川を渡るだけだよ」
ぼくらも川を渡り、シテ島の端っこを抜ける。バトー乗り場の近くではパントマイムをしている奴がいた。
結局地下街というには中途半端かもしれない、フォーロム・デ・アールにたどりつく。そこのスポーツショップが彼女の目当てだったようだ。
そこで彼女は陸上競技用のブルマと、真っ白なトレーニング用Tシャツを買った。

下宿に戻り、彼女はそれらを身に着ける。
ブルマには、なぜかモコモコと余計な布を入れる
そして頭を細長い布でしばる。
そんな彼女の姿を見て「それって何?」思わず聞いてしまう。
「日本の学校の原風景なの」と真剣な表情でヨウコは答える。
訳がわからない。