ぼくはサイード⑤

セーヌ河沿いにだらだら、休みながら歩いていたので、パリ市立近代美術館に着いたのは夕方になってしまった。
中に入り、ぼくらの展覧会を行う場所にたどりつく。
2階の広い、U字型のフロアが、みんなのスペースになる。
ここをみんなの作品で埋める、といえば聞こえはいいが、所詮は場所の奪い合いになってしまう。
噂では結構でかいオブジェを作ろうとしている学生もいるらしい。
下手をすれば予備審査で落とされてしまう。
ぼくのそんな心配をよそに、ヨウコは「私の作品はこの辺ね」と勝手に決めてしまっている。
入り口から少し入った、部屋のど真ん中の特等席だ。
可愛くないなあ。

ぼくは重い気持ちで、部屋の中をうろつく。
壁際沿いにとぼとぼ歩く。
ふとそばを見ると、ぼくの背丈より少し高い窓があった。
ちょうど向こうに、もう一つ同じ大きさの窓が見える。
このフロアでは、その二つの窓しかない。
そして、ふと外を見上げる。
「これだ」と思わず叫んでしまった。
ヨウコはぼくの突然の喜びように驚いて、「どうしたの」と尋ねる。
ぼくはニコニコしながら、「なんでもないよ。でも、この窓はぼくのものだからね」と応える。