そんなふざけた格好にもかかわらず、真面目な顔でぼくを見て、
「そこのビデオで私を撮って」と真剣に言われる。
しかたなく、カメラを構え、彼女に向ける。
スイッチを入れると、彼女は一生懸命、デンマーク体操(のようなもの)をしはじめた。
延々と、手を振ったり、腰をひねったり、足踏みをしたりしている。
さんざん動いたあと、だめだめだめと手を振りながら、カメラの枠から外れていく。
さすがに疲れたらしい。
ビデオを再生しながら、彼女に尋ねる。
「これって何」
「日本では、毎朝こんな体操をやっているの。私も小さい頃は、夏休みでもちゃんと早起きをして、参加してたの」
今の寝ぼすけな彼女からは想像もつかない。
また、いくら現代芸術といっても、なぜこんな体操なのかわからない。
「これこそ日本の原風景、朝の公園の一場面なの」と彼女
ふーん、またゲンフーケーかよ。
ヨウコが着々と準備を進めている一方、自分は何も思い浮かばない。
このままではさすがにまずい。予備審査にも間に合わなくなってしまう。せっかくのチャンスが台無しだ。
何かデッカイものを表現したいな、と思うが、いいアイディアが出てこない。
考えていても仕方がない。パリ市立近代美術館に下見に行ってみよう。
ヨウコと学食で昼食をとった後、二人でセーヌ沿いにひたすら下っていく。結構距離はあるが、何かヒントを見つけないといけない。歩いていく。
といっても、途中川に浮かぶ船のカフェで休みながらだけど。
ポンデザールそばの船上カフェでだべっていると、ちょうど橋の上でモデルが撮影されているのが見える。
歩行専用の橋で、背景がルーブルや学士院だったりして、撮影にはちょうどいい場所だ。
反射板がピカピカ光って眩しい。そこでポーズを決めるモデルたち。
ふん、と眺めるヨウコ。現代芸術家の目は厳しい。私の体操のほうが芸術的でしょ、といわんばかりだ。
何も言えない。