五木寛之全紀行1 バルカンの星の下に 北欧・東欧・東欧編 (北欧)

五木寛之全紀行1
バルカンの星の下に
北欧・東欧・中欧
五木寛之 著
東京書籍 発行
平成十四年四月十五日 第一刷発行

このブログでは、五木さんの本は一冊しか紹介していませんが、氏の本は結構読んでいました。
今回の本は、さまざまな時代の紀行文を、多様な文体で書いています。
やはり五木さんには、旅がよく似合います。

北欧
ノルウェー
私は古いものが新しくなっていくことに決して反対ではない。むしろ、好みとして新しがり屋の方なのである。
ただ新しいものは、新しいものの魅力というものを備えて登場してほしいと思う。古いものより魅力のない新品がのさばるくらいなら、 古いままの方がまだしもだ。
京都の古い寺院は、建立当時新しいものの強烈な魅力をギラギラ輝かせながら登場してきた代物だからこそ、今も見応えがあるのである。

フログネル公園でバンドゥーラという民族楽器を平家琵琶のように弾きながら 叙情歌を歌っている老人と出会いました。マイナーコードの懐かしいメロディーなので、「ロシア民謡ですか」と聞いたら強い口調で「ノー」と言った。これはウクライナの歌だという。ウクライナ語は ロシア語と似ていますが、歴史の中でウクライナの文化と伝統は スターリン時代に破壊され、バンドゥーラを弾き語る 吟遊詩人も迫害されたので 、「これはウクライナの歌だ」と胸を張った 辻音楽師の気持ちがよくわかって、色濃く影を落としている民族の歴史を感じ、すごく印象に残りました。

デンマーク

スウェーデン
海外旅行の三兄弟
長男は戦後の官費組
次男のチャンピオンは『何でも見てやろう』の小田実さん
三男坊はいかに少なく使うか、ではなく、 いかに多く稼ぐかが課題

スカンジナビア 4国(デンマークスウェーデンノルウェーフィンランド)で美人国と言えるのは スウェーデンだけだと僕は信じています。

フィンランド
スオミは決して豊かな社会福祉国家ではない。それはノルウェーのような 漁業や、海運業の伝統も持たず、スウェーデンのように 巨大な地下資源と近代工業の基盤もない。またデンマークのように 合理的な近代農業国家でもなかった。それは無数の小さな湖沼と、森林からなる暗い冷たい風土であり、人々は半年の長い暗夜を耐えて生きなければならない国だった。
スオミはつい 50年前まで 帝政ロシアスウェーデン王国との2つの外国に支配されてきた国である。何百年もの間、戦火と圧制が そして 強国の兵士と権力が、ローラーをかけるように、その国の上を行ったり来たりした。
その長い冬の季節を通じて。スオミの人々は、その暗く、どこが激しい沈黙を形作っていったものらしい。

ヘルシンキは華やかで、モダンな街だが、出発前夜の白夜のレニングラードのあの厳しい街々の美しさは、極めて精神的な美しさだった。その高貴さが、この華やかで清潔な街ヘルシンキにはない。