パリ農業見本市における大統領候補たち

今年も、パリ農業見本市の季節なのですね。

「今年の『見本市』は歴史に長く残ることになるでしょう!」──パリ国際農業見本市(2月25日~3月5日)の現場からテレビ記者が絶叫していた。

 3月1日午後、会場に到着した中道・右派陣営の公認候補である右派政党「共和党(LR)」のフランソワ・フィヨン元首相は無理して笑顔を浮かべていたが、疲労がにじんでいる様子は明らかで、痛々しいほどだった。

 予定では1日の早朝に見本市を訪問する予定だった。だが、前夜に司法当局から「3月15日に(起訴を前提にした)本格取り調べを開始するから出頭せよ」との喚問状が届き、その対応に追われため、当日の朝になってドタキャン。訪問は予定時間より半日も遅れ、午後3時になった。

 フィヨン氏は、夫人と子供2人をカラ雇用した容疑で当局から捜査されている。正午に記者会見して、「政治的暗殺だ」と司法を強く非難。そのうえで「大統領選への出馬は断念しない。国民の判断を受ける」と言明した。

 このフィヨン氏の態度に対し、フランソワ・オランド大統領(社会党)は声明を発表し、「警官、判事の仕事に疑念を投げかけた」として強く批判した。
■ 先陣を切って会場を訪れた候補者は? 

 農業大国フランスの国内最大級の見本市、パリ国際農業見本市は、毎年パリ市内ポルト・ド・ヴェルサイユの展示場で開催される。開会宣言をする現職大統領をはじめ、全閣僚、各党党首、主要労組委員長らが視察するのが慣例だ。

 第2次世界大戦直後に約50%を占めていたフランスの農業人口は、現在は約60万人、就業人口の3%にすぎない。だが、見本市を訪れた政治家は、その一挙手一投足がマスコミによって国民に伝えられる。政治家たちはフランスの主要産業である農業にどれほど関心を抱いているかを示し、「祖国愛」と同時に「国民への密着度」をアピールする。特に春の大統領選まで最後の直線コースに入った現在、農業政策やEU政策を披露する場となる見本市は、候補者にとって絶好のキャンペーンの機会となる。

 オランド大統領は大統領選を控えた2012年に12時間の訪問最長時間を記録した。笑顔を振りまき、握手をし、ワインを飲み、チーズ、ハムをつまみ、会場内のレストランで昼食をした。そのパフォーマンスが功を奏したようで、見事当選した。

 今回の大統領選の候補者の中で、2月28日に先陣を切って会場を訪問したのは極右政党「国民戦線」党首のマリーヌ・ルペン氏だった。最新の世論調査(経済紙「レゼコー」が28日発表)では得票率26%でトップを走っている。

 ルペン氏は見本市の会場で農民や報道陣、入場者に囲まれながら、持論の「フランス第一」「反欧州」を展開し、「フランス人のお金はフランスの農業産物を買うために使われるべきだ」とEUの共通農業政策(PAC)や「シェンゲン協定」(EU内でヒトやモノが自由に往来できる協定)を批判した。

 3月1日には、ルペン氏を追って現在2位(24%)のエマニュエル・マクロン氏(「前進!」のリーダー)も訪問した。会場では、「大統領選のキャンペーン中でも、司法は休戦するべきではない」と述べ、フィヨン氏への喚問を通常通り実施すべきだと暗に訴えた。経済相時代に農業を軽視したとしてタマゴ生産業者から頭に生卵の洗礼を受けるというハプニングがあったが、「郷土的な歓迎」と笑って済ましていた。

 フィヨン氏の得票率は21%で3位につけている。上位2人で争う2回投票(決戦投票)に進むのは、かなり困難な状況だ。

■ 現職大統領の見本市での「失敗」

 「見本市」は現職大統領にとっても、政治生命を左右する場になっている。

 ニコラ・サルコジ前大統領は2008年に大統領として初訪問した際、握手を拒んだ訪問客に「引っ込んでろ、このバカ」と暴言を吐き、「大統領にあるまじき言動」として批判された。5年の任期中、この言動がことあるごとに引用され、2012年の敗退を招いた要因の1つに挙げられている。

よくトランプ現象がフランスの大統領選にどう影響を与えるかが言われていますが、フランス中心主義(笑)の観点から言えば、トランプ現象の元はサルコジさんだったのかな、という気もします。

  サルコジ氏は下戸でワインも口につける程度なので、前任者のジャック・シラク元大統領との相違が際立った。グルメ(美食)よりグルマン(大食漢)で知られるシラク氏は、テレビカメラのライトを浴びながら、差し出されるワインを次々にガブ飲みし、チーズやハム、ソーセイジをぱくつき、巨大なウシの頭をなでながら「これはウシではない、見事な芸術作品、傑作だ」と述べ拍手喝采を浴びた。テレビ映像を通じて、「サンパ(親しみ易い)」というシラクのイメージが全国民に焼き付けられ、2期12年の任期を全うする原動力にもなった。今もって人気が高いのは、「見本市」の強烈な印象のお陰とも言える。

さすがシラクさんですね。明らかな貫禄勝ちですね。
最近のフランスの大統領には、こういう人がいないように思えます。

  オランド氏は2013年に大統領として初訪問した時、少女が「サルコジさんはどこ?」と聞いたのに対し、むっとして「二度と見ることはないよ」と答え、「大人気ない」と顰蹙を買った。これが支持率低下の始まりになったと言われる。

 マニュエル・ヴァルス前首相は首相として2015年に訪問した時、国営放送局「フランス・テレビジョン」の臨時スタジオに同局の社長がいるのを発見し、サンプルの食品を差し出す出品者たちの手を振り切って社長のところへ突進した。この大人げない行動が祟ったのか、今年1月の社会党の大統領候補を決める予備選で、ブノワ・アモン前国民教育相に敗北した。

 さて、今回、フィヨン氏やルペン氏、マクロン氏が「見本市」で見せた表情やパフォーマンスは、大統領選の結果にどう影響するだろうか。        
山口 昌子