ぼくはサイード⑥

ヨウコが自分の原風景を追い求めているように、ぼくも自分の原風景を描き出してみよう。
早速下宿に帰り、予備審査用の報告用紙に、自分の作品を描いていく。
テーマははっきりした。すっすと筆がすすむ。

提出して2、3日、すぐに結果は出た。
出展OKとの知らせだった。無事決まってほっとする。
ヨウコは「当たり前でしょ」てな感じで悠然としていた。場所も予想していたところだったので満足そうだった。
早速準備に取り掛かる。
まず電気店に行って、センサーで音の出る装置を買ってくる。
更になじみの画材店に行き、ガラスに貼り付けられる黒いセロハンを買う。
音色を吹き込み、セロハンをいろいろ切ってみる。大まかには決まっていたものの、細かいところが気になり、何度も切っては捨て、切っては捨てを繰り返す。

いよいよ設営の日がやってきた。
みんな自慢の作品を持ってきている。
ヨウコは透明なテントを天井から吊るした。その中に女の子用の机や引き出しを置く。机の上は小物で散乱させ、引き出しから衣類を飛び出させている。大体のことは決めていたが、実際現場になると、「こうじゃなくって」などぶつぶついいながら細かく動かす。
そして机の上には自分の体操している姿のビデオが映る。体操し、そしてだめだめだめとやめる彼女の姿が何度も繰り返される。
その他、北京の古い家並を再現しようとしている生徒や、ガラクタの電気製品を集めてなにやら組み立てている奴など、いろいろ訳のわからないオブジェが揃っていった。
ぼくも窓際に陣取り制作に取りかかる。