ぼくはサイード⑦

まず窓の上部に、センサー付スピーカーを備え付ける。そばを通ると、アラブの音楽が出てくるのだ。
そして窓には、同じくアラブの紋様を描いたセロハンを張り付ける。外が見えるように上部は空けておく。そして向こう側にも同じように貼って置く。
そんなに時間はかからなかった。早速テストしてみる。
下を通ると、のんびりとした抑揚のアラブ音楽が流れてきた。

三日後、無事ぼくらの展覧会「21世紀のエコールドパリ」が幕を開いた。
入り口には、参加者みんなが礼服できめた、セピア色の写真を飾っておいた。ヨウコは慣れないドレスを着て、はじけんばかりの笑顔で映っている。ぼくはといえば、友達から借りたタキシードを着てすましている。
午前中、簡単なセレモニーの後、お客さんがボツボツ入ってきた。みんなヨウコの作品ではにこにこ笑っている。
ぼくの作品といえば、何回かそばを通ってくれて、やっと音と装飾の関係に気がついてくれているようだ。
でもそれだけでない、夕暮れでないとぼくの作品はわからない。
一旦会場を離れる。
夕暮れ時に再びヨウコと一緒に会場に入る。初日ということもあり、客はほとんどおらず、中はがらんとしていた。
そんな中、若い東洋人の男がぼくらの作品のある部屋に入ってきた。
中国人か、ヴェトナム人かと思っていると、ヨウコの作品のそばに立って、散らかった部屋、体操のビデオ、そして作者のネームプレートを見てにやりとする。
「どうもあの人、日本人のようね」とヨウコがつぶやく。
続いてぼくの作品のそばにやってきた。午前の客と同じように、何度かそばを通り過ぎ、やっと気づいてくれた。
そして窓をじいっと見つめている。そしてその上を見る。
外は薄暮に染まったパリの空。
そしてライトきらめくエッフェル塔
それを見上げる男。
ふと振り向きぼくらの方を見つめる。ぼくの風貌で、作者と気づいたのだろうか。顔には「うまくやりやがったな」と書いてあった。なんだか恥ずかしくなって慌てて目をそむける。
その男は満足げに会場を後にしていった。
彼の後姿を見つめながら、ぼくは「ありがとう」とつぶやく。
音色と装飾と、
ネオンきらめくエッフェル塔
建てられた時には色々文句をいわれた。でも今となってはパリの象徴。
どんなものでも、最後には優しく抱きしめてくれる、「パリ」という街の限りない包容力。
これがぼくの作品。自分の「原風景」と「想い」を表した作品、てことを。(完)