ルーアンの丘

イメージ 1

ルーアンの丘
遠藤周作 著
PHP研究所 発行
1998年10月16日 第1版第2刷発行

遠藤周作氏の、日本出立から、フランス留学を終えるまでの記録。
日本出立から留学初期までの手記と、帰国直前の後期の日記の二部に分かれているが、内容自体はおおまかな三部構成になっている。
第一部は、第二次世界大戦終了の5年後、船で日本からマルセイユまで向かう道中のこと。
船底の汚い船室で相部屋となった、他国人たちの、風習や習慣に戸惑いながら、同じ人間として親しみを覚える。
また寄港地で垣間見た、戦争の傷跡。
なぜ互いに憎みあい、戦争しなければならなかったのか悩む遠藤氏。

第二部では、マルセイユからパリを経て、ルーアンの家庭で、本格的な留学生生活の前に、いわゆるホームステイを行っていたときのことを述べている。
ポールと呼ばれ、家族と同じような愛情を受けながらフランス語やフランスの風習、礼儀を学ぶ。
いろいろ戸惑うことがあっても、充実した幸せな日々。
そんな幸福の中でも、寄港地で出会った貧しい人々のことが忘れられない。

第三部では留学後半の日記。
肺をわずらい死の恐怖を感じながら、信仰に悩む姿。
第一部のユーモアも交えた手記とは違い、全体的に陰鬱な雰囲気を帯びる。
現地の女性との恋愛経験もつづられているが、愛の歓びよりも、愛の切なさのほうが身にしみてくる。


最後に、遠藤氏が留学に際しての決意文に感動したので転記します。
今後海外留学や、海外赴任をとおして、何かを得ようと思っている人には、この部分だけでも、ぜひとも読んでいただけたらなと思います。

ぼくは全ての独断を今日から捨てよう。
すべてのものを新鮮なまま受け入れていこう。
より善きもの、より美しきものを
この国の中に探っていこう。
自分をたえず支えるものは、誠実であり、
真実に対する勇気であることにしよう、
ぼくはそう考えました。