欧州航路の文化誌 寄港地を読み解く

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欧州航路の文化誌 寄港地を読み解く 表紙

 

欧州航路の文化史
寄港地を読み解く
橋本順光 鈴木禎宏 編著
青弓社 発行
2017年1月27日 第1刷

幕末から1960年前後まで、日本から欧州への旅路として利用された欧州航路。
本書では、欧州航路によって生みだされた膨大な旅行記を海洋文学として再評価し、航路が形成したメンタルマップを寄港地の順に取り上げ、同時に和辻哲郎の洋行と『風土』とを再評価しようとしています。

序章 欧州航路の文学 
船の自国化と紀行の自国語化
1 欧州航路前史 イギリス東洋航路の逆転と領土化

2 欧州航路の発展 自国化と自国語化

3 大学助教授の洋行 義務としての欧州漫遊

第1章 欧州航路の起点と原点 横浜と富士山
1 航路と横浜

2 横浜の成立

3 欧州航路からみた横浜と富士山

第2章 シンガポール
1 漂流民音吉と娘子軍

2 欧州航路の文学

3 和辻哲郎シンガポール認識

4 シンガポール上陸観光

第3章 日本人が見た/見なかったペナン 和辻哲郎『故国の妻へ』『風土』を中心に
1 大英帝国の海峡植民地ペナン

2 名所と街並みと 多民族都市ジョージタウン

3 海峡華人

第4章 インドの代名詞コロンボ デッキパッセンジャーとハシーム商会

1 船中のインド 蛇使いとデッキパッセンジャー
デッキパッセンジャーは主にコロンボからシンガポールの間を出稼ぎで移動するインド人労働者たちとその家族。甲板でテントを張り、自炊して過ごした。

2 ハシーム商会 日本語と日本円が通用する宝石店

第5章 スエズの商人・南部憲一
1 戦間期スエズ運河

2 南部憲一の生涯

3 旅行記に登場する南部
 
第6章 日本人のマルセイユ体験 幕末遣欧使節団から和辻哲郎まで
1854年に鎖国の歴史が幕を閉じて以来、飛行機の普及以前の渡欧ルート
・横浜から香港やシンガポールスエズなどを経由して入欧する欧州航路
・太平洋を渡ってアメリカに上陸し、陸路で西海岸から東海岸に至り、そこから大西洋航路で入欧するルート
・1916年に完成したシベリア鉄道を経由するルート
 
1 近代以降のマルセイユの発展
フランスで鉄道が開通するのは1834年。アヴィニョンからマルセイユのまで延伸されたのは48年
1853年ジョリエット停泊区が完成。59年に完成したラザール停泊区には埠頭駅が隣接し、船客はここから列車でパリに直行する。
1869年スエズ運河が完成
1887年(明治20年)乗り換えなしで日本(横浜)とヨーロッパ(マルセイユ)が結ばれる。
1896年日本郵船の欧州航路が開設される。
 
2 幕末・明治前半の渡航者たち
近代日本で最初に欧州航路で渡欧したのは、1862年(文久2年)の竹内下野守保徳を正史とする遣欧使節
 
3 日本郵船の欧州航路開設以後
1896年(明治29年)以降、日本人が日本郵船で、乗り継ぎなしで渡欧することが可能となった。
 
4 和辻哲郎『故国の妻へ』と風土
第7章 和辻哲郎『風土』成立の時空と欧州航路 歴史的偶然と地理的必然との交差において
1 洋行の濫觴と変質
2 「洋行不要論」の先駆者としての和辻哲郎
3 「国民性研究」としての人間学
4 先行世代・同世代
伊藤吉之助・九鬼周造・大西克禮
5 『存在と時間』から『風土』へ 同時代性の刻印
6 「風土性」から「国民道徳論」へ
日本と中国との「国民性」の対比が、ユダヤ人とギリシャ人との対比に重ねあわされている。
中国・ユダヤ 国家という紐帯への信頼とは無縁に商業活動を営む移動集団
日本・ギリシャ 祖先祭祀を軸とする複数の遅延共同体を総覧することで成立する国家理念p199
7 後続する世代との位相差
8 古代への憧憬
9 細部観察の直観力
 
おわりに
「西回り」の人々は、イギリスなどの列強によって支配されるアジアの植民地の過酷な現実を見聞してから欧米という先進国に入った。そのため、「近代・文明」を両手放しで受容したわけでなく、どこかで欧米が掲げる「文明」の独善性を冷ややかに見ていた。
「東回り」の人々はアメリカという先進国を見てからヨーロッパを見、それからアジア各国を経て帰国した。
このような人々は「文明」の精華を最初に見聞きしてそれを良いものとして素直に受け入れ、アジア各地を通過するときにその素晴らしさを確認する傾向がある。