旅する哲学

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旅する哲学 大人のための旅行術
アラン・ド・ボトン著
安引宏 訳
集英社
2004年4月10日 第1刷発行

旅行に行けない腹いせに、いろいろな紀行文を楽しく読んできた。
そんな中でも、この本は異色な物である。
哲学というだけあって、旅行においても著者は景色を見ると共に、自分の内部を見つめている。
各章には、それぞれ自分をひきつける「磁場」と「ガイド」がいる。
「磁場」は最初ロンドンの自宅から始まり、サーヴィス・ステーション、空港から、マドリッド、湖沼地帯、プロヴァンスなどと移り、そして普通の旅行と同じように、最後は自宅に戻る。
「ガイド」は様々な芸術家、ボードレールフロベール(相変らず嫌事を言っている)、ゴッホやワーズワスらである。
彼らが旅先で書いてきたことを引用し、それが各地の空に拡散し、その場所を訪れた著者の元に収縮していく、ような感じだ。

この表紙の絵は、エドワード・ホッパーという画家によるもの。
自動販売食堂」や「ガソリンスタンド」などで、ぽつんとたたずんでいる人が、この画家の主なテーマである。

旅行が終わってから、彼の自宅のガイドは「わが部屋を巡る旅」という本を書いた人であった。
なんとなくジョイスの「ユリシーズ」を思い出してしまう。
遠い世界の景色と共に、日頃の身近な風景も、よくみればまた新たな発見の元、となる。