共通語の世界史 ヨーロッパ諸言語をめぐる地政学 第一・二部

共通語の世界史 ヨーロッパ諸言語をめぐる地政学 表紙

 

共通語の世界史
ヨーロッパ諸言語をめぐる地政学
クロード・アジェージュ 著
谷啓介 佐野直子 訳
白水社 発行 
2018年12月5日 発行

本書の原題は、Le souffle de la langue:Voie et destins des parlers d'Europe「言語の息吹き ヨーロッパのことばの道程と運命」です。
いったい西洋は、いかなるこだまをこれほどのひろがりのなかに響かせているか。いかなる言語の沈殿をのこしたのか。ヨーロッパの諸言語はいかなる過去にみずからの根を浸し、過去へのノスタルジーにいかなる未来を充填しているのか。
という問いに本書は答えを描こうとしています。

ヨーロッパは、人間どうしのおりなす混沌とした歴史を通じてからまりあった限りなく多様なことばの腐植土 P12

 

第一部 連合言語
もともとの出生地をはるかに越えたひろがりを獲得した言語

第一章 ヨーロッパの共通語
国民語と共通語

ラテン語 西ヨーロッパの支柱

カスティーリャ語の栄光の光と影
国家語となったカスティーリャ語、そしてアメリカ大陸征服
ユダヤ人追放令(1492)、ユダヤ=スペイン語の栄光と苦悩

イタリア語のきらめき

エスペラント語の変遷
自然言語においては、長い歴史を通じた意味論的凝固から大量の慣用表現が堆積しているのが普通だが、エスペラント語には、そうした慣用表現の数が非常に少ない。p40

 

第二章 ヨーロッパと英語
ある共通語の知られざる歴史
ノルマンディー公ギヨーム二世による1066年のヘイスティングスの戦いの勝利と、それに続くブリテン島の征服。これにより、フランコノルマン語は公用語の地位に就く。p44
1399年から1413年まで治世のヘンリー四世。英語を母語とする初めてのイングランド王 p47

アメリカ英語のヨーロッパへの普及

アメリカの回帰

 

第三章 ドイツ語と東方の呼び声
ゲルマン民族の起源と成長

ゲルマン化の高揚
ハンザ同盟ドイツ騎士団、ゲルマン化

ある言語を広めるための三つの有力な道具は、かつては商業、宗教、軍隊であった。p73

スラブ諸語の墓、ドイツ語

ドイツ語話者の保護、戦争の回廊

ヨーロッパのユダヤ人、祖国としてのドイツ語とグローバルな使命

ヨーロッパにおけるドイツ語 過去の闇から未来の輝きへ

東ドイツでよく使われた表現「社会主義的国民語」
ライプツィヒ大学などいくらかの大学では、現代ドイツ語についてのあらゆる学位論文は、東ドイツに固有な言語の存在をふまえねばならなかった。p108

 

第四章 フランス語とその多様な使命
フランス語がヨーロッパでひときわ高い威信を備えていたのは、ひとつは十二・十三世紀であり、もうひとつは十七世紀後半と十八世紀である。p117

1763年のパリ条約は、北アメリカの支配をめぐるフランスとイギリスの間の血なまぐさい戦争に終止符を打ったが、この約束あふれる大陸におけるフランス語の運命を封じ込めてしまった。p134

過去のノスタルジーと未来のノスタルジーのはざまで

フランコフォニーとヨーロッパ

 

第二部 ヨーロッパ諸言語の豊かさと錯綜
第五章 多種多様な声の限りない誘惑
諸言語のヨーロッパとはどこまでなのか?

大きな集合
キリスト教の支柱ともいえる福音伝道こそが、東ヨーロッパのインド=ヨーロッパ系諸言語において知られる最初の記念碑的文書を生産した。p166

西ヨーロッパでは、聖なる文献が大言語を固定したのではない。
古英語の現存する最古の記念碑的文書は『ベオウルフ』。11世紀初め頃完成した叙事詩
ドイツ語の最古の文献は760年にフライジングで刊行されたラテン語とゲルマン語の対訳語彙集『アブロガンス』
フランス語の出生証明書とみなされている『ストラスブールの誓約』(842年)は政治的文書 p169

16世紀から17世紀初めにかけてのキリスト教世界の分裂がもろもろの国民語に大いに役立った。改革派はラテン語聖書の翻訳を推し進め国民語を聖化し、カトリックも同様の武器を用いた。p170

 

西において、ほとんどの国家はほぼ完全に言語的に均質になっている。少数言語は人口の10パーセント以下によってしか話されていない。
かたや東では、大部分の国家において、自分の母語を日常的に使用する民族的マイノリティが総人口の10パーセントを超えている。p180

 

第六章 錯綜するコード
輪舞する諸言語

双子の名前の象徴性

相互浸透
互いに緊密に混じりあっているヨーロッパの諸言語
・狭いひろがりの同じ領域上にいくつものことばが共存している
・そのうちの多くのことばの中で、その歴史のさまざまな時期に対応する層が相互に干渉している。p206

1850年頃の現在ポーランド領のビャウィストクの住民
ポーランド系、ロシア系の官僚、プロイセン系植民者、ユダヤ系の商人と従業員
この街で1859年、諸言語間の対立を克服しようとしてエスペラント語を発明したザメンホフが生まれる。p208