回想録 ヨーロッパめぐり ジョージ・エリオット著

回想録 ヨーロッパめぐり ジョージ・エリオット著 表紙

 

回想録 ヨーロッパめぐり
ジョージ・エリオット 著
冨田成子 訳
彩流社 発行
2018年9月28日 発行

英国ヴィクトリア朝を代表する女性作家ジョージ・エリオット(本名メアリアン・エヴァンス 1819-80)による紀行文です。
彼女が体験した数多くの旅から六つの旅を選抜しています。
ジョージ・エリオットという名前はなんとなく知っていたのですが、作品を読むのは初めてです。紀行文自体は好きなので、彼女を知るよいきっかけとなりました。
また、この本は解説が懇切丁寧に入っているので、作家としての環境や旅行先の当時の状況の理解を容易に深めることが出来ました。

 

ワイマール 1854年
メアリアン・エヴァンスは『ゲーテ伝』の取材に赴くG・H・ルイスに同行して、ドイツに旅立つ。
「ワイマール」で取り上げられるのは
ゲーテゆかりの地の取材体験
・ワイマールの風土と文化体験
・ワイマールとの別れ

ワイマールの第一印象は、期待していた典雅な「北のアテネ」とは違い「死んだように冴えない村」だったが、ベルヴェデーレ宮殿と公園を散策するうちに、たちまち豊かな自然に魅了される。
特に柵が無い公園を称えている。

 

ベルリン 1854-55
幅の広い単調な大通りが走る無味乾燥な近代都市と、誰もが口を揃えて言う街ベルリン
ワイマールに続いて『ゲーテ伝』取材のため訪問
美術・建築・演劇・音楽・オペラといった多彩なプロイセン文化と芸術を観賞し、その最前線で活躍する多くの芸術家や知識人たちと交流

 

イルフラクーム 1856年
5月8日から6月26日まで北デボンシャーの海辺の町イルフラクームに、その後8月9日まで南ウェールズのデンビーに滞在し、水生生物研究のフィールドワークに勤しむ。
この回想録のテーマは
・水生生物の採集
・山野の散策
・イルフラクームの人と文化

イルフラクームの密集する家々が大きな岩のそばに群棲するフジツボそっくりなのに気づく。p129

 

シリー諸島とジャージー 1857年
3月26日から5月11日までシリー諸島のセント・メアリーズ島に、その後5月15日から7月24日までジャージー島に滞在
更に水生生物、特に貝類の研究のためフィールドワークを行う。 

 

ミュンヘンからドレスデンへの旅 1858年
ミュンヘンからドレスデンへの移動の旅と、ドレスデン滞在に限定され、ミュンヘン滞在関連のものが省かれている。
ミュンヘン後半の心身不調によるスランプが原因か?

ミュンヘンからドレスデンまでは汽車で直行ではなく、汽車、蒸気船、馬車などを使って、ドイツ・アルプスやチロルの大自然に没入して温泉で英気を養い、ウィーン、プラハでは歴史と由緒ある美術館を巡っている。

 

イタリア 1860年
バチカンで味わった最大の醍醐味は、たいまつの灯りのもとで見た『アポロ像』をはじめとする二、三の彫像である。p233
(ゲーテの「イタリア紀行(下)」で、バチカンとカピトルとの博物館を松明の火で観賞しようとする試みについて書かれていました)

 

 

フィエーゾレからの眺め

 

まるで羊の群れのように白い家々が丘に点在し、その後方には人気のない雄大な山々がひっそりと控え、右手にはアルノ平野が延々と広がっている。私はフィエゾレ(フィエーゾレ)からの展望が断然素晴らしいと思った。p258

ところで、絵画に関する限り、ピッティ宮殿の方がウフィツィ美術館を凌駕している。こちらの方が絵は厳選された逸品ぞろいたし、収蔵数もひけをとらない。p268-269

3月24日からパリ経由でイタリアへ向かう。3ヶ月の長旅である。
この旅行では知名度でも経済力の面でも圧倒的に優位に立ったエリオットが旅の主体になる。

この回想録にはボッティチェルリへの言及が全くない。ボッティチェルリは17世紀以降、次第に忘れられ、再び光が当てられるのは、ウォルター・ペーターをはじめとする唯美主義が注目される1870年代以降であり、「イタリア」執筆当時は評価が低かった。p299