バルト海のおじさん(フィンランドからエストニアへ)

朝早く、ヘルシンキのホテルを発ち、海辺に向かう。
エストニアのタリンに行くため、高速船に乗るのだ。
朝焼けのバルト海を横目に見ながら、乗り場に向かう。Linda Lineという会社の高速船だ。
昨日、夕方にチケットを買いにいった時は、がらんとしており、誰もいない田舎の狭い体育館という雰囲気だった。
今日は朝一番の便で、多くの人が待っていた。内部の店でサンドイッチを買い、朝食をとる。
しばらく中で手続きの時間を待っていると、初老のラフな格好をしたフィンランド人のおじさんに「お前は日本人か」と声をかけられた。
そうだと答え、しばらく立ち話をする。
その内、出国審査の順番がきたので、審査に向かう。EU市民とそれ以外の入り口が分かれている。この時、パリからEUの外に出たのは、スイスのバーゼル以来だった。陸続きのところとは違うので少し緊張する。
「何でタリンに行くんだ」「観光です」などの後、パスポートをぱらぱらめくり、「いつからパリに住んでいるか言え」と聞かれた。日付まで正しいか不安になったが、特に何もなく通過した。
高速船に乗り込む。座っていると、先ほどの男性が隣に座ってきた。少しうっとうしく思ったが仕方がない。続けて話をする。
そのおじさんは、日本にも行った事があるらしい。蒜山高原の手ぬぐいや、日本旅行時のメモを見せてくれた。
ヘルシンキからタリンまでこの船では1時間30分程である。朝の晴れたバルト海を順調に高速艇はすべるように進む。外に出て、潮風を浴びたくなった。
おじさんにそういうと、「わしもついて行く」と言って、一緒に席を立ってくる。添乗員に外に出る方法を聞くが、残念ながらデッキなどには出られないとのこと。すごすごと元の席に戻る。
到着の時間が近づく。周りの客が到着の準備をしている。おじさんは別れ際に、「エストニアフィンランドと違って危険だ。十分気をつけるように」と言ってくれた。「わかりました」と素直に答える。
海外旅行において、見知らぬ人には常に注意を払うことは鉄則である。この人も本当に安全な人かわからない。しかし声をかけてくれたこと、そして忠告してくれたことには素直に感謝したい。
船を降り、狭い通路を抜けて、入国審査である。こちらはあまり厳しかったという記憶はない。
両替を済ませ、いよいよ念願のエストニア日帰り旅行が始まる。(続く)