「イタリア・ルネサンス美術館」より「アテネの学堂」

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イタリア・ルネサンス美術館
松浦弘明 著
2011年11月30日 初版発行
 
この本では、ルネサンス期の作品による、架空の美術館を設定しています。これにより作品の比較を容易に行えるようにし、よりわかりやすく解説しています。
合計35室あり、それぞれのテーマに基づき、ジョットからフィリッポ・リッピ、そしてダヴィンチやボッティチェルリ、ラファエッロやミケランジェロまで詳細に解説しています。
すべては紹介しきれないので、とりあえずルネサンス絵画の完成地点、というテーマの下に、「署名の間」のラファエロの作品「アテネの学堂」の内容を要約します。
 
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ユリウス2世在位8年目の1511年に完成したこの作品。
アテネの学堂というタイトルは17世紀末につけられたものに過ぎない。
著名な哲学者や学者が描かれているが、キリスト教以前の異教の人々である。
それがなぜキリスト教の中心地ヴァティカンの教皇の間に描かれたのか?
 
この作品より約150年前に描かれた、フィレンツエはサンタ・マリア・ノヴェッラ聖堂内に描かれた「トマス・アクィナスへの礼賛」と呼ばれる壁画。
この右下には「文法」「修辞学」「論理学」という基本的な3科と、「音楽」「天文学」「幾何学」「算術」の4科の擬人像が描かれている。
 
アテネの学堂においては、右下のユークリッドやプトレイマイオスのグループは幾何学天文学を、
左下のピュタゴラスのグループは算術を表す
音楽は?左下のぶどうの葉の冠をかぶった男ではないか?
快楽主義者の哲学者エピキュロスとか、オルフェウス教の祭司だとかという説がある。
その上方の壁に竪琴を抱えた音楽の神アポロの像が設置されているのは偶然ではない。
 
下のグループが4科を象徴するのでは、上のグループは3科を表すのではないか?
中央の二人が議論していることから「論理学」と考えられ、
左端の巻物を持っている少年やソクラテス、巻物は「修辞学」の伝統的な持ち物であるから、左側のグループは「修辞学」のグループ
右側は「文法」のグループとなる。大地を指差す(もっとも基本的な科目を示唆する)老人やその後ろの子供に読み書きを教える女性のレリーフなどからそういえるのではないか。
 
まとめると
 
    修辞学            論理学            文法
 
 
音楽          算術             幾何学        天文学
 
という配置
 
登場人物の古代の学者たちが追い求めているのは「真理のありか」
つまり「論理的真理」の探究
つまり人間が論理的な観察や考察によって、いかに真理に迫ることができるかを、ラファエロは描こうとした。
 
アテネの学堂」の最重要課題は?
トマス・アクィナスの礼賛」のような象徴的・記号的な表現ではなく
より自然にイリュージョニスティックな形で自由学芸を描くこと
そのために舞台として
古代ローマのような、あるいはルネサンス時代の聖堂のような壮大な建築
線遠近法と陰影法を巧みに使い、画面の中に入り込めそうな絵画空間を作り出す。そして
基本的な3科と専門的な4科の分類のため、階段を使って性質の異なる二つの空間を創り出した。
そしてテーマの「論理的真理」の探究を表すためには、プラトンアリストテレスの「論理学」が中心となった。
そしてグループ間のつながりのため
間に人物を配したり
手の動きや視線の向きを工夫したりした。
 
アテネの学堂がイリュージョニスティックな表現の頂点
それ以前で、イリュージョン性を備えた作品は、ダヴィンチの「最後の晩餐」以外には無い。
 
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この作品では、イエスを中心に、12使徒を4つのグループにわけ左右対称に配している。
エスの周囲に大きなスペースを設け、後方の窓から差し込む光でイエスを画面から浮かび上がらせた。
そして線遠近法の消失点をイエスの頭部に置いている。
 
アテネの学堂においても、中央の二人のみ背景が明るい空になっているし、学堂の奥へと伸びていく線はこの二人の腰の辺りへと収束している。
 
ラファエッロはレオナルドと話す機会もあったはずである。また実際にミラノまで「最後の晩餐」を見に行ったのかもしれない。
そしてアテネの学堂の主役、プラトンの容貌はレオナルドをモデルにしている。
これにはラファエロのレオナルドに対する尊敬と感謝の意が込められているのではないか。
 
(絵画の画像はwikiからのものです)