ラファエロ 作品と時代を読む(~第2章)

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ラファエロ 作品と時代を読む
越川倫明・松浦弘明・甲斐教行・深田麻里亜 著
河出書房新社 発行
2017年12月30日 初版発行

本書では画家ラファエロについて、年代順に代表的な作品を、一般の概説書よりもかなり詳しく論じています。
以前ヴァチカンを訪問してから、そこのラファエロの作品について数冊の概説書を見ながらこのブログの記事にしたことがあったのですが、本書によりさらに新しい発見をすることができ、大変有意義でした。

序章 ラファエロ―時代と人間像

《小椅子の聖母》
実物らしい精緻な対象描写(自然主義
かたちの均衡と最高度の調和(古典主義)
実物を超えて彫琢された美(理想主義)
が、絶妙に共存した世界
古典主義=理想主義美学に最も適合した存在は、やはりラファエロをおいてない。p23


第1章 ウルビーノからフィレンツェへ フィレンツェ時代の三大聖母子画

三大聖母子画は《牧場の聖母》《鶸(ひわ)の聖母》《美しき女庭師》


ラファエロの聖母子画の風景が特に素晴らしいのはフィレンツェ時代以降である。
まさにラファエロフィレンツェで見たに違いない地形である。
万人を魅了して止まない調和に満ちたルネサンス的風景の原像といえる。p41


ラファエロの聖母子の最高傑作とみなされる《美しき女庭師》
レオナルドから学んだピラミッド構図とミケランジェロのモニュメンタルな造形力を融合した、フィレンツェ時代の数年間の研究の総決算。p54


第2章 「署名の間」の装飾におけるイメージ・ソース  プラトンとダンテ


「署名の間」の天井のメダイヨン内に描かれた四人の擬人像は「神学」「哲学」「正義」「詩学
この「署名の間」は本来、ユリウス二世の私的図書室であったことから、教皇の325冊ほどの蔵書を上記の4つのジャンルに分類し、各側壁の下部に設置された書棚に収めていたのかもしれない。p65


アテネの学堂において、ギリシャの哲学者たちが画面左下から左上、中央、右上、右下と年代順に置かれており、壁画全体はギリシャ哲学史の変遷を表している、という説p98


アテネの学堂において、言語系の三学も表されているという見方には様々な意見があり、それらはいずれも「人為的で独善的」ということだ。p109


アテネの学堂は人が算術、幾何学天文学、音楽を学び、その上で哲学的問答法を探求していくことで、魂を上昇させていく過程を表しているのであろう。p111

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(画像は署名の間のパルナッソスです。矢印の人物がダンテです)

署名の間の《パルナッソス》に描かれるダンテは「署名の間」の装飾を見ていく際の起点、ないしは視点としての役割を担っているのではないかと推察できる。
そこで彼に対してウェルギリウスが指し示している方向である東側壁は地獄篇における辺獄での出来事であればその状況も奇異ではなくなる。p115-116

署名の間の《天体の始動》の主題はダンテの神曲の天国篇の記述などから、ヴァザーリが言っているような「占星術による恒星と惑星の配置」ではなく、「知性による天体の始動」とすべきであろう。p118
(あるラファエロの解説書ではこの壁画が表紙になっていて、不思議に思った記憶がある。それなりに重要な意味を持っているのかもしれない)

ダンテの視点から左上を見上げると、彼が地獄の底から煉獄に上昇した時に見た星空を確認し、更に視線を南側壁へと向けると、そこには「4つの星」である枢要徳と「3つの光」を示す対神徳が目に入る。最後に西側壁を見ると、イエス、マリア、洗礼者ヨハネが神の栄光に包まれた姿で現れる。
署名の間は、このように神曲の展開と合わせて見ていくことが可能である。p127-128
ラファエロプラトンイデア論を見上げ骨格とし、そこに神曲に表されたイメージを巧みに肉付けすることで、キリスト教的な理想社会へのアプローチを描出しようとしたのではないか。p131
(ダンテの神曲の影響力の大きさを改めて実感します)

ラファエロはなぜ自分自身を「美」をテーマにしている北側壁ではなく、アテネの学堂に置いたか?
プラトンは画家を批判していた。当時は画家の地位は低いものだった。しかしラファエロの時代は画家の地位も向上していた。
プラトンの画家に対する考えへの明確な「抗議」だったのではないか?p131-132