雷神帖 池澤夏樹 著
雷神帖
エッセー集成2
池澤夏樹 著
みすず書房 発行
2008年11月10日 発行
コンピューターというのは遅れてきた道具である。
だから新顔として既成の社会に参画する際にはメタファーの衣をまとって登場した。ファイルとかフォルダー、ゴミ箱やメールなどと呼ぶのはそのためだ。
兌換紙幣の発行機であったはずのコンピューターがどこからか不換紙幣を大量に発行して、情報的なインフレーションを引き起こしている。
インターネットは特にその傾向が強い。
内容より簡単に手に入ることの方を優先してしまう。
検索システムでたどれる答えのようなものが本当の答えかの検証は自分で、コンピューターの外による尺度によって行わなければならない。
本というものの価値は買うときにはわからない。だから本を買うという行為は博打めいている。一生に一度という出会いの対価が数百円だったりする。
池澤さんの住んでいるフォンテーヌブローのような小さな町にも製本工房(l'atelier de reliure)がある。
しかし自分の本を綺麗に製本してもらうのに迷う池澤さん。
しかし結局誘惑に負けて製本してもらいにいく。
一夏を経て、受け取りに行く。細部まで行き届いた、いかにも腕のいい職人の仕事を実感する。