
最後のソ連世代
ブレジネフからペレストロイカまで
アレクセイ・ユルチャク 著
半谷史郎 訳
みすず書房 発行
2017年10月18日 発行
単なる二項対立ではない、新たな発見をすることができました。
ちなみに英語題では「Everything was forever, until it was no more The Last Soviet Generation」となっています。
この本で考察するのは、ソ連システムを崩壊させた原因ではなく、崩壊を可能かつ予想外にしたシステムの作動原理である。
二項対立に依拠した、システムの抑圧面を強調する社会主義モデルでは、極めて重要な、そして逆説的に思える事実が消えてしまう。
つまりソ連市民の大多数は、ペレストロイカ以前は社会主義の日々の暮らしの現実(教育、仕事、友情、人付き合い、物質面の後回し、未来志向、思いやり、無私、平等)をソ連の重要で実質的な価値だと受け止めていたが、にもかかわらず日常生活では社会主義国家や共産党が定めた多くの規範や規則を時おり破ったり曲げたり無視したりしていた。 p12
ルフォールの逆説
「コンスタティヴ」な発話と言われる、既成事実の記述を第一の目的とした事実確認的な記述。
「パフォーマティヴ」と呼ばれる、新たな意味をつくる、すなわち、今ある社会の現実を映し出すのではなく、何かを変える発話
例えば裁判所での裁判官の言葉「有罪!」
その「有罪!」の発話を口にした瞬間にある人の地位が被告人から犯罪者に変わってしまう。p25
本書で用いた資料は、いくつかの傾向を探り当て、後期ソ連システムの内部で進行していたが、ある時期まで目につかなかったずれや変化を、イデオロギー儀礼・発話の形式レベルや意味レベルで明らかにすることである。
そのため一部の資料は、規範や規則でなく、そこから逸脱するものを選んでいる。p39
この改編の結果、外部の位置からイデオロギー言説に接する立場が消えてしまった。
単に形式が画一化しただけでなく(決まり文句や繰り返しの多用、語彙や文体の類似、予想可能で儀礼的になる)、「水ぶくれ」が激しくなり、要領を得ない不格好なものになった。
ハイパーノーマル化。
形式の硬直と画一化は、非言語の権威的言説でも進んでいた。
後期ソ連における新たな変化は、大きく言って二つの原理にまとめられる。
第二に、言説の時制が総じて過去に向かっている。つまり、どんなに新たな情報でも、過去の発話から分かっている既知の情報としてコード化されている。p76
権威的言語で書かれたテキストの校閲では、単純に動詞を取り除くのではなく、名詞化という手法で動詞から派生させた特殊な名詞に置き換えている。
もとの動詞句の文章だと、動詞に問いを立てれば、反論できる。
名詞句はたくさんの前提をつくれる上、テキストの作者の声を隠し、発話に対する責任をうやむやにする。