ヘロドトス「歴史」(中)より

歴史(中)
ヘロドトス 著
松平千秋 訳
ワイド版 岩波文庫
2008年3月14日 第1刷発行

この歴史(中)では、ペルシャ戦争の最初の部分をおもに描いている。
最近映画で、ペルシャ対スパルタの戦いを描いたものがあったが、ちょうどその直前の部分くらいまでのようだ。
自分には、この本を本道から論ずる能力も無いので、とりあえず本論からはずれた中でも、興味深いエピソードを書いておきます。

ゞ寡櫃領運

アイギナとアテネイの戦いにおいて、アテナイ軍は破れ殲滅したが、一人だけ生き残って帰国し、敗戦の悲報を伝えた。それを聞いた、戦死した兵士の妻たちが唯一生き残ったこの男に憤激し、取り囲んで着物の留針で男を刺しながら、なじったという。
そうしてこの男は殺されてしまったが、アテナイ人は敗戦よりも、女たちの所業の方が恐ろしく思えたので、女性の衣装をイオニア風に改めた。
というのも、いままでのドーリス風では、留針が必要で、イオニア風では不必要だからである。

よくギリシャ彫刻などで優雅な女性の服を見ますが、それにはこのような恐ろしい歴史も隠れているんですね。怖いものです。

逆立ち踊りで逆玉を逃した男

ギリシャにさる新興の名家があった。その勢力が絶頂に達した頃、そこには若い未婚の娘がいたため、父は財力にものをいわせてギリシャ中から最も優れた青年を選びたいと思い、布告を出し募集した。
それに応じ、ギリシャ中から様々な面で優れた男たちがやってきた。
父は求婚者に対し、家系を調べると共に、1年間かけて自分の手元に置き、彼らの能力、性向、教養、行儀などを綿密に試験した。
そしてその中でヒッポクレイデスという男が能力も家系も富も美貌も優れていたため、父のお気に入りとなり、娘の婿にする予定だった。
しかし1年後、いざ婿を発表する日に行った盛大な宴の食事の後、求婚者は音楽や座興のスピーチを競い合った中、ヒッポクレイデスは笛吹きを呼んで踊りの曲を吹かせ、それに合わせて踊った。
それを見て父の疑念が深まり、こんな恥知らずな踊りをする奴には娘はやれぬと考えを変え始めたが、さらにテーブルの上で逆立ち踊り(足でしぐさをする)をするにいたり、ついに堪忍袋の緒が切れて、
「お前のその踊りで縁談は取り消しじゃ」といえば、ヒッポクレイデスはそれを受けて、
「ヒッポクレイデス(ほどの者)は気にせぬぞ。」といった。
それ以来この言い回しがことわざとなったそうだ。
そして結局、別の男が、婿になったという。

詳しい解説がないので、なぜヒッポクレイデスがこのような振る舞いをしたのかよく分かりませんが、多分娘が気に入らず、また、彼自身も古い名家の出身で、お金もあり見栄えもいいため、やっぱりここで結婚するのはやめとこか、となり、あえてぶち壊しにかかったような気がします。
あえて面白く考えれば、酒に酔っただけか、あるいは単なるKYだったのかもしれませんが・・・。
それにしても「ヒッポクレイデスは気にせぬぞ」と堂々と、逆立ち踊りをしながら言っている情景も面白いですね。