森鴎外と日清・日露戦争

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森鷗外と日清・日露戦争
末延芳晴 著
2008年8月20日 初版第1刷
平凡社 発行

森鷗外の多様な面の中から、この本では日清・日露戦争従軍時に鷗外が経験したことや、様々な思い、また「うた日記」という戦争詩歌集、そして妻子への愛情や田山花袋との交流などが書かれています。 

ドイツでの鷗外は、西洋古典音楽の最も正統的な本流とされ、王候貴族や資産階級を主たる聴衆とするオペラや管弦楽にはあまり興味を示さず、代わりにビヤホールで賑やかに演奏される大衆的な歌や合奏、さらには異教的なユダヤ系のダンサーの踊りや音楽などに興味を示していった。p63

鷗外による、日露戦争従軍詩歌集「うた日記」
日本文学史上、例を見ない詩歌集であり、四百首を超える、新体詩風の長詩と長歌、短歌、俳句からなる。
それまではお互いに反発しあっていた陸軍軍医森林太郎と文学者森鴎外が初めて内部において出会い、合体融合したところで実現した稀有の実験的な詩歌集。p166

「うた日記」のカテゴリー
・公的抒情詩
・公的叙事・叙景詩
・私的抒情・幻想詩
・私的叙事・叙景詩

日露戦争従軍時における、妻志げに対する手紙より
明治末期の時点で、鷗外ほど手紙を通してストレートに妻に対する愛情を表現した文学者は他にいなかったのではないかと思えてくる。
また、さらにもう一歩踏み込んでいえば、一種の「ピグマリオン・コンプレックス」といったものがあったのではないか。
ピグマリオン・コンプレックス
キプロスの王ピグマリオンが、自ら象牙で彫り上げた女性の人形を偏愛したというギリシャ神話に端を発し、日本語では「人形偏愛症」と訳され、本来生命の宿っていない「物」としての人形、あるいは人形のように小さくて可愛らしいものを溺愛し、いつまでも自己の支配下においておこうとする心的態度。
映画「マイ・フェア・レディ」のような心的傾向をも
指して使われている。p292-293