リッツアの夢見た青空(ゼウス神殿)

ギリシャの朝の抜けるような晴天の中、ひろびろとしたゼウス神殿に向かう。
ギリシャの青空と言うと、「リッツアの夢見た青空」を思い出す。
これは米原万里著「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」の中の三話のうちの一話だ。
米原さんというと、よくコメンテーターとかでテレビに出ており、「小太りの口の悪いおばさん」くらいの印象しかないかもしれない。
しかし、ワタクシ、たいへんこのお方を尊敬しております。ユニークな経歴に基づく経験談をいきいきと文章に反映させているからである。
さて、「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」だが、彼女のプラハでの学生時代の友人との交わり、そして再開の経緯について書いてある。
ちなみに、残りの一話の題は「白い都のヤスミンカ」という題であり、見事題名の中にトリコロールが散らばっている。
チェコ、ロシア国旗の色なのだ。ついでながら我がフランスの色である。こんな細かい配慮でも嬉しくなってしまう。
さて、「リッツアの夢見た青空」だが、この主人公リッツアはギリシャ人であり、親の政治的思想により、ギリシャにはおれず、プラハ米原さんら同じような境遇の子供たちとソ連の学校に通っている。
芸術的才能があり、口の悪い先生たちも一目おいている。しかし一方、理系の科目の能力はなく、先生から、「あなたがアリストテレスの子孫だなんて信じられない」などと罵倒される。
そんな彼女がどのような大人になっていったか、は本を読んでいただくととして、苦労した家族、挫折と苦学、そして再開した時は、ギリシャでもない異国の地で、出稼ぎに来ている人たちに信頼されている存在になっているまでのくだりを読むと、思わずほろりとくる。
彼女は、ギリシャの青空を実際に見たことはない。しかしそれに憧れ、どんなに美しいか力説する。
自分がゼウス神殿のエリアに入り、ゼウス神殿、さらに向こうのアクロポリスを眺めた時、彼女の夢見た青空に出会えたのではないかと、感慨にふけるのであった。