米原万里 著 心臓に毛が生えている理由

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心臓に毛が生えている理由
平成20年4月30日 初版発行
 
2006年5月に亡くなられた、米原さんのエッセイ集。新聞や大学の広報まで、様々なところで書かれたエッセイを収めている。最後にはプラハソビエト学校についての池内紀さんとの対談で締めている。
 
ソ連ラーゲリに収容されていた女性の話。ラーゲリ生活で辛かったのは、過酷な労働でも、冬の寒さでも、不潔不衛生でも、貧弱な食事でもなかった。最も辛かったのは外部からの情報を完全に遮断され、本と筆記用具の所持を禁じられていたこと。そんな家畜みたいな生活から抜けだす卓抜した解決法。
それは俳優だった女囚が「オセロ」の舞台を一人で全役をこなしながら再現すること。疲れても寝入る女はいなかった。
さらにそれぞれが記憶にあった本の内容を声に出して補いながら楽しむようになる。そうやって「戦争と平和」などの大長編までも字句通りに再現した。
その結果、女たちに、肌のつやや目の輝きが戻ってきた。
 
嘘つきアーニャの真っ赤な真実」での取材。これはテレビ番組にもなった。
再会したアーニャの「国境なんて21世紀には無くなるのよ」や「民族や言葉なんてくだらない」という言葉。
番組ではこの言葉を美化して終わっているが、米原さんや、他のプラハソビエト学校の友達はその言葉に欺瞞と偽善のにおいをかぎ取る。
そこに日本人の考えるグローバル化と本来の国際化との間の大きな溝を感じる。
それが「嘘つきアーニャ~」の物語を書くきっかけとなった。