「コーリャ 愛のプラハ」について

バスは地下鉄の駅、ノヴェー・ブトヴィツェに着く。
今のおぼろげな記憶からすると、地下鉄の駅らしくなく、住宅や店などもない、広々とした緑の中にぽつんとあったような気がするが、全く当てにならない。
地下鉄に乗る。車内での駅名のアナウンスが女性の声なのだが、合成した音みたいで、無機質に感じる。
映画「コーリャ 愛のプラハ」での地下鉄のシーンに出てくるとおりだ。
この映画はヨーロッパから帰ったあとに見たのだが、本当によくできた素晴らしい映画だと思う。
まず、単純に「美しい」。
教会での葬式でクララという年増の女性が賛美歌を歌うシーンがある。一番最初も含め、何回かバリエーションを替えて出てくる。光が美しく彼女の顔を照らす。歌声がまた素晴らしい。
その他でも、今ぱっと思いつくだけでも、主人公の男性ロウカと子供コーリャが病院で廊下を歩く寂しいシーン、チェコの美しい自然の中でのシーン、そしてラスト近く空港で3人を遠景で撮るシーンなどなど。
映画自体には全く詳しくないので、技術的なことはよくわからないが、素人目にも、光の扱い方が本当に巧みだと思う。チェコ・イギリス・フランスの合作だそうだが、いかにもヨーロッパ的陰影美がある。アメリカ映画には絶対出せない感覚だろう。
あと、ストーリーとその舞台がいい。ちょうどプラハの1989年の無血革命前後の話だ。主人公は優秀なチェロ奏者だが、ある事情で表舞台からはほされている。しかし女好きで、暗いところはない。そんな彼が金ほしさに偽装結婚をし、結局ロシア人の子供を預かる羽目になってしまう。最初はいろいろ抵抗があったが・・・、という感じで話はすすむ。
ストーリーの端々に細かい伏線やチェコ人のエピソードが盛り込まれており、飽きさせない。
舞台は美しい、古都プラハである。時々窓からプラハ城が顔を覗かせる。
そして最後は切ないが、一方で新しい時代(チェコにとっても主人公にとっても)に向かう希望への扉を開いており、見終わった後はただ感動するのみだ。
と映画の話をしているうちに、地下鉄はプラハの中心地に入ってきたようだ。
ホテルは中心地から東側にあり、ガイドブックの地図では載っていない。
大体の目星をつけ、地下鉄を降り、長いエレベーターで地上に向かう。