最後のソ連世代 ブレジネフからペレストロイカまで 第3・4章

第3章 転倒するイデオロギー  規範(エチカ)と詩学(ポエチカ)

この章では、イデオロギー形式の踏襲反復がソ連の日常の様々な場面で思いがけない意味や関係、新たなアイデンティティや社会性を生み出していたことを見ていく。

1970年代から80年代はじめにソ連の若者が権威的言説に直面する最たる場所は、学校や職場のコムソモールである。
コムソモール活動は、若者の日常生活の一部であり、イデオロギー活動はもとより、文化・社会活動やスポーツなど様々な分野が関係する。p103

動詞句の「労働者階級が革命に勝利した」なら、勝利という事実は新たな主観的なもの、つまり反論のある見解となる。
しかし名詞句で「労働者階級の勝利」だと、勝利という事実は、客観的で誰もが知っており、反論の余地のない事実となる。p117

コムソモールの主たる任務は、共産主義の精神で結びついたソ連青年の独特な社会集団をつくること。
ただ、その中核精神は、がちがちの共産主義とは何かが違っていた。
ひとまとまりの「仲間」(スヴァイー)だった。

ソ連での進行したシステムの内部変化は、体制への「抵抗」や「反対」といった概念とはつながらない。
こうした変化から連想されるのは、むしろ有機体の突然変異、すなわちドゥルーズガタリが脱領土化と名付けたシステム再編である。

脱領土化
自然界にある二つの異なる種の共生、たとえば蘭と蜂
蘭は蜂に食べ物を与え、蜂は蘭の花粉をまわりに運ぶ
この二つのプロセスは相互依存の関係にある
このため蘭の性質も蜂の性質もともに変化する
蜂は脱領土化され「蘭の生殖機構の一部分となる」つまり不特定の領土を無秩序に飛び回る小さな虫であることを止め、巨大な制的システムの一部になって、蘭と同じように具体的な場所に結び付く
一方蘭の方は領土化が進み、蜂の動きのおかげで小さな静的な花から大きな多数の分岐を持つ動的システムになって、まわりの領土をどんどん取り込んでいく

第4章 ヴニェで生きる  脱領土化された生き方

後期社会主義の下では大半の主体・公衆と国家との相互関係が、程度の差こそあれ、このヴニェ(超越)の原理に基づいて構築されていた。
そればかりか、それが後期ソ連システムの存在と再生産の中心原則となっていた。
このような関係は、国家への抵抗でないのに国家をじわじわと変えて脆弱にし、突然の崩壊を準備する。
なぜなら党=国家体制は、この関係を見抜いて理解する、つまり全面統制する力がなかったからである。

ヴニェの公衆は、国が制度化したもの(物理学者、文学クラブ、コムソモール委員会など)であれ、制度化と無縁な空間で生まれたもの(カフェ「サイゴン」など)であれ、どれも国の権威的言説としての接し方として成立し、多かれ少なかれ国の資産やイデオロギーのレトリックを使用しながら同時にその意味を変える。p202

後期社会主義の時期に最後のソ連世代の間で生まれ広まった傾向に、立派な専門キャリアを捨て、自由な時間が多い仕事に就く現象がある。ボイラーマンなど。p206