ラテン語の世界 ローマが残した無限の遺産
小林 標 著
中公新書 1833
2010年4月15日 6版
ヨーロッパ文化の基層ともいえるラテン語
ラテン語とは優秀で活動的な子孫を世界中に派遣している大旧家の、その総本家屋敷の奥深くにひっそりと、しかし厳然と住まいしている年老いた大家母長である。
ラテン語の一見複雑怪奇に見える変化形の背後には、実に整然たる、ほとんど数式の行列にもみまがうほどの論理性が存在する。
その形のひとつひとつの流れを「形式」と呼ぶとすると、それらの形式には常にその形式特有の「意味」が付随しているのである。
「形式」が「意味」を明示すること
「形式」と「意味」との対応の中にみられる論理性
これがラテン語にあり、近代諸言語にはない特性である。
名詞、形容詞や動詞の形を変化させることを「屈折」と呼ぶ
日本語動詞の未然、連用、終止、連体は「活用」であり屈折とは異なる。
日本語は膠着語に分類される。
助詞的要素を糊をくっつけるかのようにして語の意味を補強し、最終的に文の意味を作り上げる言語が膠着語である。
ラテン語はその意味の違いを単語そのものの形の変化で表す。
文法的「性」とは、名詞をあらかじめいくつかの類に分類しておいて、それらの扱いになんらかの区別を設けること。
日本語で無生物は「ある」と言い、有生物は「いる」と言うが、要するにそれは主語の有生・無生にしたがって、存在の動詞を使い分けること
日本語で「あたし」「おれ」を比べると、一見いかにも性の区別があるようだが、この言い換えは「ていねいさの度合い」に過ぎず、文法的範疇の性とは無関係の現象である。