ヨーロッパの言語の旅

ヨーロッパの言語の旅 表紙

 

ヨーロッパの言語の旅
下宮忠雄 著
近代文藝社 発行
1995年4月30日 第1刷

第1部 言語と文化
ゲルマン民族におけるパン
パンの原義は「食物」、ビールの原義が「飲物」であるようにp8

アグネーテと人魚
アンデルセンが『人魚姫』よりも前に出版した戯曲詩の題名
ここにおいては人魚姫とは逆に女が人間で男が人魚だった。
不評だった。p23
(確かにあまり見たいとは思わない・笑)

ヨーロッパの地名と文化
地名はその語形が透明なものと不透明なものにわけることができる。
透明とは当該言語の知識があれば原義が容易に判明するもの
不透明とは語形が非常にかわってしまったため言語史的知識なしには理解できないものp36

 

フランス語の5つの言語層
1 前印欧語   基層
2 前ケルト語  基層
3 ガリア語   基層
4 ロマンス語(ここではフランス語) 中心的な層
5 ゲルマン語  上層

地名の形態論
1 形容詞+場所語(町、城など)
Beograd スラヴ語で「白い町」
Tallinn エストニア語で「デンマークの城」linnは「城」
2 場所語が省略され、形容詞だけが残る
3 民族名+場所語
Denmark 「デーン人の国境」
Frankfurt ドイツ語で「フランク人の浅瀬」
4 支配者名+場所語
Augsburg アウグストゥス皇帝の町
5 普通名詞から
Don,Donau,Danube いずれも古代ヨーロッパ語で「川」
6 地形の名称
Balkan トルコ語で"chain of wooded mountains"

 

ヨーロッパ河川名
ヨーロッパを流れる500km以上の川26個の名の起源を調べると
1 水、川、流れ、沼
2 川名の派生形
3 支流
4 川の色
5 曲がり、湾曲
6 右の、左の[支流]
7 境界川
などの意味から来ていることがわかる。

地名にみる文化
「新しい町」のタイプ:Napoli,Villeneuve
「美しい町」のタイプ:Belvedere,Mirabeau
「居住地、村落」のタイプ:Bonn,Bologna
「市場」のタイプ:Turku,Trieste
産物より:Alma-Ata「リンゴの父」

 

古代ゲルマン人名の構造
姓の起源は、大別して次の四つがある。
1 父称:Johnson=John's son
2 職業:Smith「鍛冶屋」
3 地名:Churchill〈 church hill 教会丘
4 あだ名:Armstrong「腕っぷしの強いやつ」

ヴラディーミル(Vladi-mir 世界の支配者)という意味p56
(かのプーチン氏も…(*_*;)

 

第2部 言語
言語の構造
複数言語間の関係
1 系統的関係:例えば、英語とドイツ語。両方ともゲルマン語
2 類型的関係:例えば、日本語とトルコ語。両方とも「主語+その他+動詞」の語順が共通
3 地理的関係:北米インディアン語と南米インディアン語。系統関係はない
4 翻訳
同系語間:フLe petit prince→エThe Little Prince
異系語間:フLe petit prince→日 星の王子さま
方法により
人間翻訳と機械翻訳

文字を持たぬ言語はあるが、音声を持たぬ言語はない。

文字には次の3種がある。
表音文字:アルファベット
表意文字:漢字
音節文字:かな文字(ひらがな、かたかな)

 

対照言語学の理論と実践
対照言語学は同系または異系の2言語を共時的に比較し、その共通点と相違点を記述する。 
p77

日本語はカタカナ、ひらがな、漢字の3文字使用の珍しい言語である。

ヨーロッパ諸語における潮流
ヨーロッパの6大言語(英・独・仏・西・伊・露)は国際的な言語として、今後ますます拡張し、小言語は弱体化するであろうが完全に消滅することはないであろう。p93
(この本が書かれた当時はこのような予想だったのかもしれないが、現状では英語の一人勝ちになってしまいました)

 

比較言語学は何をなしうるか
・同系の諸言語の親疎関係(兄弟の関係か、いとこの関係か)の解明と祖語の再構
・それらの言語の担い手である民族の文化の解明p96

比較言語学は同系の諸言語を比較する学問
英語と日本語の比較は比較言語学ではなく対照言語学p97

 

第3部 文法 
能格、この不思議なるもの

テンスとアスペクト

印欧語における否定の表現

固有名詞と文法
ロシアにはne-「…でない」、bez-「…のない」の接頭辞を持つ河川が多い。日本の皆瀬川(水無川)のようなものp144

 

第4部 紀行
ライン河畔のボン
ライン河畔にあること、主要幹線上にあること、大学があること、ベートーベンの生誕地であること、などがボンが西ドイツの首都になる上でのセールスポイントになった。p149

ベルリンの学会

フィヨルドの町ベルゲン
私はヨーロッパ人らしく生きることとは何か、について一つの発見をした。それは英語やドイツ語を話すことなどではなく、だれにでもまねのできる、実に簡単なこと、立ち食い、否、歩き食いをすることである。p163
(この頃の日本人は、まだお行儀がよかったのでしょうね・笑)

 

ベルゲンにおける言語的体験
ノルウェー語の文法書は2人称代名詞に親称(きみ)と敬称(あなた)を区別して掲げているが、この敬称はほとんど聞かれなかった。生徒が先生に対しても「きみ」だし、店員がお客に対しても「きみ」である。
ノルウェーにおける「2つのノルウェー語」なるものの存在を実感した。書物語と新ノルウェー語という2つの公用語のことで、使用人口率は80パーセントと20パーセントであるといわれる。p166

フィヨルド(fjord)はオックスフォードのford、フランクフルトのfurtと同様、「渡し場、渡り場」が原義で、ゲルマン語共通の動詞faran(行く)に由来し、港のportと同じ印欧語根にもとづいている。p168

サマランカ大学とバスク語研究