ルネッサンス巷談集

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フランコ・サケッティ 作
2011年12月16日 第10刷発行
 
14世紀フィレンツェの商人、フランコ・サケッティによる「短編小説三百篇」の翻訳。
当時のフィレンツェは国際的な商人が活躍するとともに、ダンテ、ペトラルカ、ボッカッチョなどの新しい文学、チマブエ、ジョットの芸術が創り出された、文字通り花の都だった。
サケッティはボッカッチョ的世界に強い影響を受けているが、よりブルジョア的、家庭的な面が強められている警句、冗談、艶話、なまぐさ坊主譚、逸話、世間話が飛び出してくる。
文体が単純で自然で、軽快で、そのうえフィレンツエ独特の才気や意地悪さにも欠けていない。
彼の作品は市井のの生活の埃っぽさに包まれていて、さまざまな階層の市民や動物たちが、ヴィヴィッドに動き回っている。
(自分なんぞは、この話集を読んで、落語噺を思い出した。熊っあん八っあんが生き生きと江戸の町をよみがえらせるように、ルネサンス時代の喧騒をよみがえらせているのである)
 
「短編小説三百篇」が完成したのは、サケッティの没年のわずか前の1400年ごろである。当時は自筆原稿のまま、一部の好事家に読まれていたに過ぎなかった。
死後170年後、ぼろぼろになった写本一環が掘り出された。
そしてやっと18世紀に出版されるまで、多数の篇が減ってしまった。
(古典の宿命とはいえ、もったいなく感じる)
 
登場人物はダンテやジョットのような大スターから、無名の市民までいろいろである。みんな個性豊かで癖のある人ばかりである。
その中で特に、色好みの無名人ベルト・フォルキのエピソードが面白い。
この人、ブドウ畑で百姓娘の上に乗っていいことをしていたところ、たまたま塀の上から下を見ずに、背中に飛び降りてきた男に巨大なガマに間違えられる(笑)。
また家庭では、体の一部をねずみに間違えられて、猫に掴まれてえらい目にあうが、亭主とその道具に対して思いやりのある(この点をわざわざ強調しているのが面白い)女房の機転により、危機を脱する。
こんなドタバタ劇が、生き生きと展開されていく。
また舞台も現代でも通用する教会や広場が出てくるので親しみが持てる。
フォルキさんがガマに間違えられた時も、サント・フェリーチェ教会が早鐘を撞きだしたりして、ドタバタの背景を彩ってくれるのが、現代とつながっているのが実感でき嬉しい。