「愛と哀しみのボレロ」を見て

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 第二次世界大戦前から、映画発表時(1980年ごろ)にかけての、パリ、ベルリン、モスクワ、ニューヨーク等における多様な人々の激動の人生を描き出した作品。
 同じ役者さんが、親と子の二役を演じたりして、時間枠を超えて登場してくるのが面白い。また、出会いや微妙なすれ違い、歌詞による暗喩などもあり、見事すぎるくらいに構築されている。何度か見て「ああ、ここはこういうことなのか」とわかったこともあった。
 邦題は「愛と哀しみのボレロ」となっている。話全体としては第二次世界大戦時におけるユダヤ人迫害など、どちらかというと「哀しみ」の方が多くなっている。しかしテンポよく移り変わっていくバレエや様々なダンスなどの映像美、そしてヴァラエティに富んだジャンルの音楽が、そのような哀しみを湿っぽいものにせず、華やかに彩ってくれる。ミュージカルではないけれども、それに近い世界を創り出している。
 その流れをじっと追っていくうちに、人生自体は確かに哀しいものかもしれないが、その周りを彩る音楽やダンスなど、われわれ人類が創り出して来た芸術は本当に美しいものなのですよ、と訴えかけてきてくれるような気がした。
 ラストシーンはパリのエッフェル塔からシャイヨー宮がその舞台になっており、そこでいろいろな背景を背負ってきた登場人物が一堂に会する。やはりパリという街しか、このような舞台にふさわしい所はないのだろう。パリの面目躍如たる名場面である。
 もちろんこのラストシーンだけでなく、名場面がやたら多い映画だと思う。
 個人的に好きな場面は、ドイツ人指揮者がある妨害により、観客二名にで指揮棒を振る所である。音楽を一途に愛する思いで、感情を溜め込んで指揮をする姿が見事だ。また同じ指揮者が、パリの凱旋門の上(当然パリの街並みが背景となる)記録映画を撮る所も画として素晴らしい。あとロシア人バレーダンサーの亡命シーン、などなど書ききれない。それにしても優秀なバレーダンサーは、亡命さえもクールだな(笑)と思った。