フランス詩選

フランス詩選(新装復刊)
白水社 発行
1996年2月10日 第二刷発行
 
訳者の山内氏が、大正12年の訳詩集「仏蘭西詩選」から40年以上にわたり、訳した詩の選集です。
詩人としては、マラルメクローデルプルーストなどの作品が主となっています。
歴史的仮名遣いや、古い漢字が、フランス詩の雅さによく似合いますね。
この中で、お気に入りの詩をあげておきます。
ルイ・コデという詩人のものです。(一部現代漢字に直しています)
 
 セーヌ河
 
燃えさかる七月のこの日、
暗い町々を出はづれると、
川。平底船一杯に
すくすくと起重機がそびえ、
 
青天鵞絨の人足は、
シャベルを動かしながら、
美しい黄金の砂を積み上げてゐる
何かしら心ひかれる川の風情・・・・・・
 
それにしてももうたそがれ・・・・・・
黒い群集の往きかひ
うごめきかへつてゐる橋の上には、
空。白い林檎の
その半かけのやうな月が
夕暮れの倦じごころを思はせて・・・・・・
 
 
 
「燃えさかる七月のこの日」とは、革命記念日のことでしょうか?
建物の間から、セーヌ河沿岸にたどりついたようです。
場所はポン・ヌフの辺りなのかと、勝手に想像してしまいます。
この詩人は絵も好きだったようで、この作品も陰影や色彩にあふれ、あたかも印象派画家によるパリの風景画を見るようです。
「暗い町々を出はづれると、
川。」
「うごめきかへつてゐる橋の上には、
空。」
の部分は、訳者(原文も同じようだった?)の技術が現われていますね。
詩人の視線が転じる様を、読者も同じように味わうことができます。