日本人と美

日本人と美
竹山道雄 著
新潮社
昭和45年11月30日 発行

カルナックの巨石文化。日本の飛鳥の蘇我馬子の墓など、世界各地に同じような巨石文化が見られる。

芸術というのは、優しくてメロディアスで陶然とさせるものだけではない。逆にぞっとさせる、暗い、悲劇的なものもある。芸術は「美」ではなく心を打つ衝撃である。

スイスのチューリッヒ市にあるリートベルク美術館。ヨーロッパ外の芸術を集めている。そこでの説明。すべての芸術は三つの類型に分けることが出来る。印象的、構成的、表現的。筆者はそれに加えて、日本人が「空虚の怖れ」を克服するために「暗示」的芸術があるのではないかと示唆する。竜安寺の石庭や雪舟の破墨山水などがその例。

キリスト教など厳しい全能の一神が信ぜられているところでは、強烈な不動堅固な表現を求める。そして仲介者としてマリアの礼拝堂が人間に近い、路傍などにつくられるようになった。

松江市外の神魂(かもす)神社こそ、その純粋性において、世界に比類のないものである、と筆者は主張する。大らかに翳りなく、さながら自然の雰囲気が凝って現われ出でたようなふうである、とのこと。

ヒットラー礼讃やスターリンなどを見ると、現代こそもっとも激しい迷信と呪術の時代ではないか。安定した権威がうせ、マスメディアがあまねく行き渡り、さかんな扇動が行われるようになったから、社会の集合的潜在的意識がはげしく揺すぶられるようになり、多くの人が幻影の中に踊るようになった。
この本が書かれて約40年後の今でも、あまりかわっておらず、ますますひどくなっているだけなのだろうか?