スプートニクの恋人(The Sputnik Sweetheart)

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スプートニクの恋人
村上春樹 著
講談社
1999年4月20日 第1刷発行

先日、新聞を読んでいたら、小さな記事で、村上春樹さんのことが出ていました。
その内容は、最近、イスラエル文学賞を受賞した村上さんに対し、パレスチナを支援するNGO団体が受賞辞退を求めた、というものでした。
賞を貰える事自体は名誉な事なのでしょうが、その一方、いろいろ難しい問題も多いように思われます。
特に村上さんのように、目立つ事を避け、じっくりと小説を書いていきたい作家にとっては嫌な事も多そうです。
かのノーベル賞にしても、読者からの質問の回答集などでも、候補になっていると言われても、いろいろ憂慮しておられました。そして「脳減る賞」や「ノーベル飴」などのジョークで紛らわせておられました。
自分の好みとしては、そんなとぼけたギャグと安西水丸氏のイラストが入ったエッセイや問答集が大好きです。自分と同じ「吉本興業電波圏」で高校時代までを過ごされていたせいなのかはどうかわかりませんが、「笑い」の地位を高く見ておられ、またある意味権威に反する気持ちからか、バカバカしいこともよく書いておられ、笑わせていただいています。

今回記事にした「スプートニクの恋人」は、題名が何となく気になっていました。
海辺のカフカ」の少し前に書かれ、量的には中篇といった感じです。
私は小説自体あまり読まないため、評論めいた事は書けませんので、ただ感じた表層だけを述べてみます。

舞台は日本、ギリシャの島、そしてスイスの小さな村です。
実際に村上氏はギリシャの島に住んでいた時もあったので(「遠い太鼓」に詳しい)、その経験もこの作品に生かしたようです。「国境の南、太陽の西」等に比べ、日本を脱出している分、世界が開けているような気がします。
主人公は語り部の「ぼく」よりも、その女友達の「すみれ」なのでしょうか。彼女が年上の女性「ミュウ」と出会い、恋に落ち、仕事で一緒にヨーロッパを回るうちに事件が起こり・・・、という感じです。
といっても特に同性愛をスキャンダラスに扱っているわけでもなく、ごく自然に感じました。
海辺のカフカ」のカフカくんに見られる、中3の男子の気負った元気さの模写(プリンスのネトネトとした顔と音楽がピッタリ当てはまると思う)より、さらっときれいで読みやすかったです。
物語自体は次の展開が読めないため、どんどん引き込まれていき、あっという間に読破してしまいました。
ラストは現実か「ぼく」の空想か考えさせられ、余韻を残しています。
村上作品によく出てくる「あちらの世界とこちらの世界の横断」を、この作品ではスプートニクという、ソ連を象徴するような人工衛星になぞらえているのが、独特な味わいと色彩を与えています。

最後に少しだけ引用しておきます。妙に印象に残った文です。

「ねぇ」とすみれは言った。そして微妙な間をおいた。ペテルスブルグ行きの汽車がやってくる前に、年老いた踏み切り番が踏切をかたことと閉めるみたいに。