フランス 絵画と文学の心

フランス 絵画と文学の心
小沢コレクション30
饗庭孝男 朝比奈誼 加藤民男 窪田般彌 著
小沢書店 発行
1990年8月20日 初版発行
 
フランスの画家と文学者、セザンヌとゾラやジャコメッティサルトルなど、24の組み合わせで叙述しています。
 
いかにもパリの詩人だったボードレール。しかし肉体的にも生活的にも疲れきっていた一時期、オンフルールに滞在していた。
そこには大空の大王と呼ばれるブーダンが住んでいた。ボードレールブーダンには「空気と水の驚くべき魔術」を見ていたが、風景画家自体は認めていなかった。
自然嫌悪を装い続けたボードレールは「自由な人よ、きみはつねに海を愛するだろう」という一句を残すが、ブーダンにはこんな韜晦趣味は不用だった。ブーダンは素直でつつましい、徹底した海の詩人であった。
(オンフルールには一度行ったが、ブーダン美術館は昼休みで鑑賞することができなかったのは残念)
 
マチスボードレールマラルメ、ロンサール、シャルル・ドルレアン、モンテルラン、そしてジョイスといった詩人や作家の作品に挿画を入れている。
彼自身語るように、マチスはそうした文学作品を解説するためでなく、詩人の感性に触れることで自らの感性を豊かにする目的で好みの作品に挿画を描いた。
アイルランド東海岸、ダンレアリーのジョイス博物館で、マチスの挿画を見たときは意外な気がしたのだが、そういうことだったのか)
 
コクトーの言うように、モディリアニは客をもとめてさまよい、即席の似顔絵を描きなぐった画家ではなく「客席に腰を下ろして手相を見る尊大なジプシー(ロマ)」だったから、一枚たりとも注文による肖像画などは引き受けていない。
すべてが「彼の眼、魂、手の中でくみ上げられる」ものであり、デッサンは「彼の線と、僕らの線」がひそかに取り交わす「もの言わぬ対話」だったのだ。
 
ジャコメッティの女たちの立像に、それぞれ人を寄せ付けぬ「距離」を示しているのを見て、サルトルは1941年の捕虜収容所で他人と接して詰め込まれ、その後故郷に戻り「恭しい距離を保った」生活を学びなおした時のことを思い出した。