シベリア横断鉄道の旅

イメージ 1

シベリア横断鉄道の旅
エリック・ニュービー著
大窪一志 訳
1992年6月20日 初版第1刷発行
図書出版社

この本は、1977年、まだブレジネフ政権が強固な頃のソ連時代に、モスクワからウラジオストックまで、シベリア鉄道で横断した紀行文です。
イギリス人の著者と、氏のチェコスロバキア人の奥様、そしてユダヤ人のカメラマン、さらに彼らに同行する、通訳やその他様々な段取り、そして見張りも兼ねているであろうソ連当局の男性によるグループでの旅行です。
ほとんどの時間は列車に乗っており、内部でのいろいろごたごただけでなく、わずかな停車時間に立ち寄った駅周辺の様子も描かれています。また3つくらいの都市では一旦列車を降りてホテルに泊まり、現地の工場の見学などもほとんど強制的にさせられていました。ソ連側としては、一般の民衆からはなるべく遠ざけ、自国の発展する産業をPRする目的があったのでしょう。
このようにやたら制限の多い旅行であったため、当時のソ連の情報統制の厳しさ、垣間見た民衆の貧しさ、工場の官僚主義や偽善性などが皮肉っぽく、かつユーモラスに模写されています。
それらの実体験の紀行文の合間には、過去の文献による、ロシア・シベリアの歴史、開発の苦労話、また実際過去にシベリアに立ち寄った人々による体験談(ユーラシア大陸横断の自動車レースの経験談まであり)などなどを積極的に引用しており、ロシアという国を長い歴史で捉えているのが参考になり、面白いです。
過去から帝政ロシア、そしてソ連時代から現代のロシア、と体制は変わっていっても、基本的なところでは、ロシア人はそんなに変わっていないのかもしれない、と考えさせられました。