天使とはなにか 中公新書

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天使とは何か
2016年3月25日 発行

表紙の帯に出てくる、ラファエッロの「システィーナの聖母」に出てくる、愛らしくもどこかいたずらっぽさそうな有翼の「天使」
正真正銘の天使は、聖母子を取り囲む雲の間から、無数にその顔をのぞかせている。空中の雲が凝縮してできる半透明のような存在であると古くから考えてられてきた。画家はそれを見事に表現している。
とすると、この二人の「天使」は?どういうものか
それは見ている鑑賞者の心の動きを象徴する「スピリテッロ」(小さなスピリット)という意味

ダンテの神曲
その中でダンテは天使を「天球を回転させる者」といった。
ダンテは九種の各天使たちを宇宙の運動の担い手であると見なしていた。

初期キリスト教の時代。とりわけ1世紀から325年のニカイア公会議の頃まで、イエス・キリストと天使は、同一までとはいわないまでも、とてもよく似たものとみなされていた節がある。

モン・サン・ミッシェルやローマのカステル・サンタンジェロなどエルサレムからグラストンベリーまで、ミカエルゆかりの地を順につないでいくと、ギリシャを経由し、イタリア半島を横断し、フランスからイングランドに達する。
これを「聖ミカエルアポロン・ライン」と呼ばれる。
大天使ミカエルは翼のある救世主のような存在だったのだ。

合唱したり合奏する天使の図像は古くからありそうだが、実際は14世紀まで待たなければならない。なぜか?
一番大きな理由は、音楽についての考え方が、古代や中世では近世や近代と大きく異なっていた。
古代ギリシャピュタゴラスプラトン以来、音楽とは、まず何よりも宇宙の数学的な構造に関わるものであり、天体がその回転とともに奏でているものであった。
このような抽象的な音楽に対して、具体的な声楽や器楽は感覚的なものとして、一段と低く見られる傾向にあった。
14世紀にはアルス・ノヴァと呼ばれる新しい音楽が誕生する時代でもあった。天使に託すことで、音楽は神の手から人間の手に降りてくる。

ラファエッロの時代、聖チェチリアは、天使たちを見上げて瞑想していた。
しかしその後バロックにおいては、天使たちが伴奏し、聖チェチリアが歌っているような図柄もある。
オペラの誕生とバロック音楽の隆盛期を迎える頃には、人間の耳に聴こえない「宇宙の音楽」は、ほとんど現実感を失いつつあった。

近代における堕天使、もしくは反逆天使は、道徳や倫理にもとると解されるのではなくて、権威に「反逆する」、ことだと読み替えられていく。

「神は死んだ」という19世紀末のニーチェの言葉
しかし天使は死なない。
宗教という枠組みを越えて、芸術や文学の中で生き続ける。
それはあたかも、神が居なくなって、神に奉仕する必要がなくなり、一層自由に翼を羽ばたかせているかのごとくである。