入門 国境学


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入門 国境学
岩下明裕 著
2016年3月25日 発行

国境を学として論じる際に依拠するボーダースタディーズ、つまり境界研究は、一つの空間が持つさまざまな彩りをその境界が重なり合う場所を通じて描き出すことで、単色に塗りこめられた空間がそうでない事、一つ一つの色合いをもつことを復元する。
そしてその色合いはさまざまに交じり合い、交錯する。

国境を決めていくプロセスは
①位置取り
②確定
③画定
④管理
の四段階に分けられる

国境を区分けすると
①疎外
②共存
③相互依存
④統合
として境界という膜を類型化している

国際空港を有する大都市間の距離が縮小し、逆に同じ国の首都と田舎の距離の方が遠い。この一種のリゾーム型の空間変容は、人間の意識を変えつつある。
そして大都市にある国際空港およびそこで囲い込まれた空間が「国境地域」となる。国境から地理的に遠く、しばしば首都に近い国際空港の周りにしばしば外国人や移民たちが暮らすようになる。

一つの島を単一の空間としてみる傾向がある
しかし現実には、島の内部は山で寸断され、むしろ群島の場合、海を通じて別の島と一体となった生活圏をつくってきたケースが多い。
島を割って国境にするのも恐れることではない。

EU・ユーロ圏・シェンゲン協定に加入しているかどうかでヨーロッパにも多様な境界がある。
ヨーロッパが一つ、などといったステレオタイプの内側に、さまざまな「見えない壁」がある。

フィンランドはEUの中で対ロシア国境のゲートウェイに当たるため、国境管理プロジェクトを引き受けることが多いが、他のEU諸国から見れば、フィンランドはロシア人を簡単に通してしまう「ざる」である。ロシア人がフランスなど他のEU諸国に滞留しさまざまな軋轢をおこすことも少なくないため、フィンランドの入国管理は批判の対象とされる。

欧州のボーダースタディイズの研究コミュニティがあまり成立していない地域として、ポーランドバルカン半島があげられる。
ポーランドで境界をめぐる問題を議論したら収拾がつかない。そもそも現在のポーランドは、その歴史性を越えた空間にほぼ人為的に設定された国家である。
境界問題はタブーになっている。

国境を共有する二国間では地政学的な縛りが存在する。
そうでない国は民主主義や人権などの価値、エネルギーや経済などさまざまな要因で関係性を構築できる。
しかし自由であることは、つきあう必要が無いとも言える。利益に反するとき、あるいは利益が見出せないとき、お互いに無関心、没交渉という関係性もありうる。

北方領土について
ロシア人は土地に執着し、日本人は海(漁業権)がほしい。
それならいっそ、島の所有権は放棄して、漁業権を保証させる交渉に変えたらどうか

ボーダーツーリズム
欧米では国境越えが比較的簡単なことから、複数の国をまたぐ観光は一般的である。
アルプスに行くのにドイツやフランス、イタリア国境を旅する
フィンランドからエストニアまでバルト海を越える など
(自分もフィンランドから日帰りでエストニアに行った思い出がある)

ボーダーツーリズムは国家を取り巻く、あるいは国家や社会の中にある、さまざまなボーダーに気づき、それを考えるツアーであることが分かる。
この種のアカデミックツアーが成立すれば、境界地域の励ましにもなる。
また平和創造にも直結する。観光業そのものが平和産業である。