犬が星見た 武田百合子 著

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中公文庫
2011年8月30日 19刷発行
 
昭和44年にソ連や北欧を、夫の作家武田泰淳さんや竹内好さん、更にはたまたま一緒になった銭高老人らと訪問した紀行です。
題名は「犬が星見た」となっていますが、実際は、わがままな王様に従う優秀な書記官が諧謔の心を持って綴った、ようなきめ細やかで楽しい文章になっています。
まだ当時のソ連では、いろいろ堅苦しい面もあったはずですが、あまりそのような面が目立たないのは百合子さんの人柄によるものでしょうか。
そして中央アジアなどの慣れない風土でも、しっかり食べ飲みきちんと見学する元気のよさには感心します。
 
飛行機に乗ったときに地上の天山山脈を見て
まばたき一つしても惜しい。息を大きくしてもソン。ゆっくりと少しずつ回りながら天山山脈は動き展がっていく。
何の音もない世界。生きもののいない世界。ガランドウというかカラッポというか
そういう大交響楽がとどろきわたっている。
天山山脈がうしろになると私はお産をすませたあとのような気分になり、眼をつぶった。
 
お酒も入り、旦那さんと柔道試合のように踊る百合子さん。
「百合子、面白いなあ。面白いと思うか。楽しいか」
「普通だよ」
上機嫌で踊る旦那さんだが、突然トイレに行きたくなり、踊りは終わった。
 
ストックホルムで、ホテルから出てお酒を買いに行くが、酒屋がよくわからないため2時間以上かかってホテルに戻る百合子さん。
部屋に戻ると、主人と竹内さんが無言で座っている。
二人は百合子さんが戻ってこないのではないかと不安になっていた。
竹内さんが「お前が女房を使いすぎるからだ」と武田氏を責めていると、だんだんしょんぼりしてくる武田氏。
いなくなることなど全く考えなかった百合子さん。もし出て行くことになったら大金のある財布を持っていくから、と(冗談で)言う。