シャルトル幻想 辻邦生 著

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シャルトル幻想
辻 邦生 著
阿部出版 発行
1990年9月30日 第二刷発行
 
辻邦生さんによる短編小説集です。エッセー的なものもありますが、全て短編小説として数えています。その理由は「これらを書いていた時、このロマネスクな震えのようなものが、たえず透明にゆらいでいたから」とのことです。
表紙はなぜかシャルトルの大聖堂ではありません。プラハ城のように思われます。
 
西欧の光の下 より
パリでのある晴れた日の夕方、地下鉄がトンネルを出て、セーヌにかかる鉄橋にいきなり出たときのこと。
一瞬の間にエトワールからモンマルトルの家並みの高まりとその上に立つサクレ・クールをはさんでエッフェル塔にいたる夕陽に照らされた灰暗色の屋根の拡がりを見た。
そのとき、町を形成し、町を支え続けている精神的な気品、高貴な秩序を目指す意志、高いものへのぼろうとする人間の魂を、はっきりと見出した。
この瞬間こそが、著者にとって、おそらく西欧の光に触れた最初の機会だったかもしれない。
(おそらくメトロ6号線の、セーヌに架かるビラケム橋へパッシー側から入ってきたときだと思う。自分はこちら側からの思い出はないが、逆に左岸から入ってきたとき、高架から建物ばかりを見てきて、セーヌ川に入ったとたんパアッツ~と風景が開けた時の感動を思い出した。)
 
献身
これはアルチュール・ランボオが最晩年マルセイユの病院で妹に看護されながら、今までの人生を回想するという作品です。
妹がランボオのことを回想するのと重ね合わせており、外面模写と内面独白が交錯し、一人称と三人称を同時的に使いながら、約60ページ、全く改行なく、一気につづられていきます。
アデンとかでの過酷な商取引から、シャルルヴィルの学生時代やパリでの思い出が語られていき、読者が彼の人生を追っていける仕掛けになっています。
たいがいの登場人物は実名を出していますが、最も濃い関係であったヴェルレーヌらしき人物は「兄貴」とされており、なぜか実名が出ていませんでした。