名画が愛した女たち(前半)

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名画が愛した女たち
木島俊介 著
2012年1月31日 第1刷発行

中世の伝統の中では、毅然として正面を向いている顔は神であり、キリストの顔であるから、俗人の顔として真正面を向いた顔を表現することは慎まれていた。
横顔は個人の特徴を捉えやすいという表現上の特徴を持っているし、横顔はれっきとした方向性を持っているから、見方によっては行動的に見えるし、また見方によっては毅然として威厳を持つものにも見えたのである。

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フラ・フィリッポ・リッピの「聖母子と聖アンナの生涯」(一部)
4分の3正面相の顔は均衡が取りにくく、生きたモデルを必要とする傾向がある。この絵の素描を見ても、その自然さ、華麗さから、生きたモデルの存在を確信させるのである。
そしてこの作品は、フラ・フィリッポがルクレツィアを誘拐した後に描かれたものだという年代設定を持つ。

レオナルドとモナリザの顔が重なるという説について
レオナルドも綿密に手記にしたためているように、ルネサンスの時代には、画家にとっての理想の顔かたちと言うものが、その形状及び、各部の比例、均衡、調和を含めて厳格に計測され、数値化されて成立しつつあった。
レオナルドはこの探求の一つの頂点に立つ。
だから、男性の顔であれ女性の顔であれ、この基本的カノンにおいて双方が一致するのは当然のことだ。

モナリザのモデル、リザ・ゲラルディーニ・デル・ジョコンドは古文書探索により1542年に死亡されたこととされている。その死亡時、ヴァザーリは31歳であるから、彼が生前のリザに会って、肖像画の様子をそのモデル自身から詳しく聞いたという可能性は残ることになる。
もしそうならヴァザーリの「芸術家列伝」における詳しい叙述(彼は実際のモナリザの作品は見ていない)の根拠の一つにもなる。