須賀敦子が歩いた道

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須賀敦子が歩いた道
須賀敦子松山巖、アレッサンドロ・ジェレヴィーニ、芸術新潮編集部 著
新潮社 発行
2009年9月20日 発行
 
この本では作家、須賀敦子さんの来歴をたどっています。
第一章では「坂」をひとつのキーワードとしています。
幼少時の宝塚や白金、そして留学や結婚後に訪問したイタリア各地、更にはパリや晩年に取材旅行で訪問したアルザスまで、様々な「坂」の写真と須賀さんの作品の言葉を絡めています。
この中では、やはり自分も現地に行った、アルザスのブドウ畑の道やローマのサンタンジェロ城内部の登り道、そしてシエナの聖女カトリーナ通りが印象深かったです。
特に聖女カトリーナ通りは撮られていた写真は、自分が撮ったものとほぼ同じ場所だったのでなおさら嬉しくなってしまいました。
ここの様子を、須賀さんはこう叙述しています。
 
暗い谷底に降りるような細い坂道のてっぺんに私は立っていた。高い建物が両側から迫るように並んでいて、家々の窓から道に張り出した洗濯物が風にはためいている。私は、建物の壁に貼った大理石の標識に目をやりながら、考えている。聖女カテリーナ通り。この道を降りて行けばカテリーナが生まれた家がある。
 
このときは、この坂道が「暗い谷底に降りるような細い坂道」のように見えたようなのですが、40年後、再びその道は「あかるい太陽に照らされた、ただの平凡な坂道」に見えたようです。
旅で出会う通りは、そのときの心情を反映させてくれるようですね。
  
第二章以降は松山巖さんやイタリア人ジェレヴィーニによる須賀さんの思い出話になっています。
カラヴァッジョの静物画や「マッテオの召出し」に注目していました。
また、須賀さんのイタリア語は完璧だった、というのはさすがですね。そして羨ましく感じます。
「異なる言語の間を、等しく生きた人」だったのでしょうね。