チェーホフ「サハリン島」

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サハリン島
チェーホフ 著
原卓也 訳
中央公論新社
2009年7月10日 初版発行

1890年7月、チェーホフはサハリンへ旅する。
これはその時のサハリンの状況をつづった本だが、紀行文という趣は全くない。
彼は、わざわざカードをつくり、熱心な下級官吏の如く家々を訪問し綿密に調査する。
ただの旅行者とは思えない。何か裏の目的があったのだろうか?

ロシア極東のアムール河の河口、前方に広がる一条の帯。これが当時流刑囚の島であったサハリンの姿。
かのオデュッセイが道の海を航海し、世の常ならぬ生き物との出会いを漠然と予感した時に、味わったに違いない感情が、チェーホフの心を捉えた。

流刑囚もいれば、それに付き添う家族、そして流れてきた自由人、彼らを支配する役人と雑多な人が、この厳しい自然環境の中で、それぞれの立場を背負いながら生活している。それを細かく、冷徹な筆致で書きつづるチェーホフ

また民族もロシア人から、ギリヤーク人、アイヌ人、満州人、シナ人、そして日本人と、様々な民族が混合している島。

悲惨な環境、不潔な生活状況などから逃げ出す人も多い。島という隔絶された状況から離れ、とりあえず大陸という場所にあこがれる人々。