ダブリンからダブリンへ
栩木伸明 著
みすず書房 発行
2022年1月7日 第1刷発行
『ダブリンからダブリンへ』というタイトルには、時間的な移動、つまりは歴史的観察と空間的な移動、ようするに旅という二つの意味合いが込められているとのことです。
冒頭は少し前、このブログの記事で扱ったホウス岬を紹介しています。
Ⅰ ダブリン便り
著者の住むバルドイル暮らしの今を綴ったもの。
バルドイルはホウス岬のつけ根にあって、五、六分歩けば海辺に立てる場所
「バルドイル」はアイルランド語で「黒髪のよそ者の町」を意味する。
今から千年以上前、デンマーク系のヴァイキングがこのあたりへやってきて、集落を営んだ遠い記憶が刻まれた地名
Ⅱ 紆余曲折のクロニカル
19世紀半ばから20世紀半ばにいたる約百年のアイルランドが描かれた、映画や文学作品を手掛かりにして、人々がどんなふうに生きたかをたどる。
Ⅲ 〈起きているものごと〉が奏でる音楽
この国が1990年代の半ば以降に経験した未曾有の経済躍進〈ケルティック・タイガー〉にはじまり、その躍進が失速し、やがて安定して、現在に至るまでの見聞録
Ⅳ 古いビールと冬の高潮
2010年の2月、ミュンヘン空港は見渡す限りの銀世界だった。
カフェの窓際の席で、ボイルした白ソーセージを食べながら白ビールを飲む
このメニューは〈第二朝食〉として供される伝統食とのこと
Ⅵ 低地地方(ネーデルランド)から船出して
赤レンガ造りの巨大なアムステルダム中央駅を背にして、左の方へ歩いていく。
埋め立て地に取り残されたような水が左手に広がっている。駅の背後はすぐ海だ。
そのあたりにもやってあるボートを一艘借りて船頭をひとり雇い、複雑な形の入り江をこぎ抜いて北海に出られさえすれば、やがて西の水平線にグレートブリテン島が浮かび上がり、ロンドンへたどり着けるはずだ。
ブリュッセルは坂の町だ。
オランダの町々を巡りながら南下して、ブルージュ、ゲント、アントワープを見物した後、この大都市にやってきてそう思った。
北海に面した低地地方はどこまで歩いても平坦だったのに、二週間ぶりにブリュッセルで坂道を上ったからである。p195
Ⅶ おしゃべりなひとびと、北西のひとびと
Ⅷ シェイマス・ヒーニーと仲間たち
個性派ぞろいのアイルランド人を紹介するエッセイ
Ⅸ 生きのびていくことば
したたかに生き続けようとすることばの文化に対する期待をこめてこの本を締めくくる。