リノベーションからみる西洋建築史 歴史の継承と創造性

 

リノベーションからみる西洋建築史 歴史の継承と創造性

加藤耕一 松本裕 他 著

彰国社 発行

2020年4月20日 第1刷発行

 

このブログを書くにあたって、ヨーロッパのいろいろな歴史的建造物の歴史を調べていると、どの建物も多くのリノベーションを経てきていることがよくわかります。

本書は、リノベーションの観点から、西洋建築史の豊潤なる魅力を解き明かそうと試みています。

歴史上の建築家とクライアントは、何を考え何のためにそのリノベーションを行ったのか?幾つもの事例を対象に、その背景を丁寧に解き明かしています。

 

第1章 都市組織の中に生き続ける古代建築

リノベーションの手法

・部分利用

エレメント保存

象徴的な装飾や部材、空間を保存

ファサード保存

外観をつくる要素を保存

ボリューム保存

外観・内部空間の一部を保存

・全体利用

維持・保全

当初の姿を保ちながら利活用

建築的介入

構成・構造・設備の改修による最適化

総合的介入

周辺地域の再開発計画との連携 p9

 

古代神殿のリノベーション

パンテオン(ローマ)

アテネ神殿(シラクーザ)

・ミネルヴァ神殿(アッシジ)

アウグストゥス神殿(ポッツォーリ)

 

ディオクレティアヌス浴場のリノベーション

 

古代劇場のリノベーション

・マルケルス劇場

・ナヴォーナ広場

 

古代ローマ円形闘技場のリノベーション

・遺構の住居化

ルッカのアンフィテアトロ広場

 

第2章 再利用による創造、改変がもたらした保全

リサイクルから生まれたローコスト建築

コルドバ大モスク創建(785/786-786/787)

保全と継承から生まれた柔軟性と創造性

 

大聖堂になった大モスク(1236年)

 

第3章 古代末期から中世へ

歴史上のリノベーション事例

・古代の建築からの部材再利用(スポリア)

・地価の構造体を残し、上部を建て替えた事例

・建物を使いながら拡張した事例

・何百年もかけて段階的に建て替えた大規模な改築事例

・ロマネスク教会堂の内陣を巨大で明るいゴシック様式に建て替えた事例p48

 

古代末期:キリスト教建築の誕生

 

古代から中世への橋渡し

 

紀元千年の建築

「ちょうど千年目を境として、それから2、3年の間にほとんど世界中で、しかし特にイタリアとガリアにおいて、そのほとんどはまだそのような手入れは必要ないようのに見えるのに教会の建物が建て直されるような現象が起こった。・・・それはまるで世界そのものが揺さぶられ、古い時代の衣服を投げ捨て、そして辺り一面が白い教会という衣裳をまとったかのようだった。」

西暦1000年の状況について、年代記作者ラウール・グラベールの文章。

グラベール自身、修道士として1025年から1030年にかけて暮らしていたディジョンのサン=ベニューニュ大修道院も1001年から1018年にかけて建設された。p52

 

クリュニー大修道院の拡張工事

 

最初のゴシック建築

12世紀のサン=ドニ旧修道院

セーヌ川の支流オワーズ川沿いの町ポントワーズ付近の石切り場の良質の石材を利用p56

 

第4章 歴史的建築の再利用と建築家の創造性

テンピオ・マラテスティアーノ(サン・フランチェスコ聖堂の改築)における新と旧、聖堂と霊廟の融合という実践

・アルベルティの『建築論』と建築作品

 

初期近代のサン・ピエトロ大聖堂再建における旧大聖堂の役割

 

第5章 近世ヨーロッパ宮殿建築の新築更新と建築再生

近世貴族住宅の様式と建築計画の特徴

 

ルーヴル宮殿におけるスクラップ・アンドビルドと建築再生

 

ヴェルサイユ新城館建設をめぐる小城館の「保存問題」

 

第6章 線的な開発と面的な継承の都市再生

19世紀のパリで行われたオスマンの大改造はしばしば、中世都市の解体という破壊的イメージで語られる。

しかし都市空間を有機的なひとまとまりとして捉える「都市組織」の視点で見ると、

オスマンの大改造で開設された道路が既存の街区を縁取り、

結果的に裏路地に中世の都市組織を部分保存したといえる。p98

 

パリの市壁

フィリップ・オーギュストの市壁(1190-1215)

シャルル5世の市壁(1365-1420)

ルイ13世の市壁(1634-47)

徴税請負人の市壁(1785-90)

ティエールの市壁(1840-46)

パリ外周道路の開設(1973)p99

 

パリは19世紀に入って人口が急増し、過密で非衛生な都市となっていた。そのあり様は、中世都市の細かな街路網を人間の毛細血管に、そして人を血に例えると、細い管に多量の血が流れ込んで梗塞を起こし、パリという身体によどみや慢性的な高血圧を引き起こしている状態だった。

オスマンにより、道路開設事業を中心とする近代都市改造という、血の巡りを良くする大規模な外科手術がパリに施されたのである。p103

 

オスマニザシオン

パリのオペラ通りに代表されるような、ネオ・バロック様式の直線道路の開設を通じて都市再生を図る手法p110

ファサディズム

歴史的建造物の外観保存のために、ファサードだけを切り離して残し、背後に全く別の構造や機能を持つ建築を新設する手法p111

 

第7章 「過修復」から「保全」・「保護」へ

1789年のフランス革命はイギリスにも激震として伝わった。革命は不信心から起こったという考えから、改めて教会が重視されるようになり、典礼のあるべき姿を求める中で、中世のゴシックが見直された。

そのゴシック・リヴァイヴァルの中で行われた「修復」事業p112

 

第8章 建築が紡ぐ人々の意志

記念的建造物のサバイバル

 

継承すること、創造すること

 

拡大・成長する文化施設

 

建築遺産の拡大と多様性