実戦・世界言語紀行

実戦・世界言語紀行
岩波新書(新赤版)205
1992年1月21日 第1刷発行

梅棹さんが、さまざまなフィールドワークなどを通して、世界中の言語に触れた経験談です。
東北アジアと南海の島じま
アジア大陸の奥深く
大陸の南縁にそって
アフリカのサバンナと砂漠の中で
ヨーロッパをゆく
新世界とオセアニア
世界の中の日本語
との章に分けています。

フィンランド語はヨーロッパでは「悪魔の言語」と称されるほど難しい言葉とされているが、日本人にとってはそれほどでもない。
名詞の格変化は15種類あるが、日本語は格助詞が10種類あり、これらを名詞の後に離して書くが、フィンランド語はそれが名詞にくっついて、格語尾となっていると思えばよい。

エスペラント語は文法は16か条でおしまいで、例外がない。そして全ての人間にとって有利・不利が極めて少ない。

スウェーデンノルウェーデンマークスカンジナビア三国の言語はそれぞれかなりよく似ている。共同経営のSASという航空会社では共通語が形成されており、サスペラントと呼ばれている。

世界でギリシャ人の最も多い都市はアテネで、二番目はサロニカであるが、三番目はオーストラリアのメルボルンらしい。オーストラリアは移民の国である。

日本語は地方的変異の大きい言語である。
各地方ごとに基層に異なった言語が存在していて、むしろそれが次第に日本列島の政治的統合が進むにつれて、ひとつの日本語と呼ばれるグループを形成するようになったのかもしれない。

言語構造では日本語は複雑ではない
音韻の構造は簡単
ほとんどの動詞が規則変化で人称変化もない
名詞には文法的カテゴリーとしての数も性もない
だからローマ字で書いている限り、話し言葉としては、さほど難しいものではない。

「三上文法」では日本語には主語なんてはじめから存在しない。
「象は鼻が長い」の主語は?
主語があり、述語があるという構造はインド・ヨーロッパ語の一部に見られる言語的なくせであって、言語一般に見られる普遍的現象ではないのかもしれない。

日本語の国際化と共に、日本人には聞きなれない奇妙な表現が外国人の日本語の中に現れてきても不思議ではない。そのような「おぞましい日本語」を聞くことに耐えなければならない。
イギリス人なども、世界で行われている「おぞましい英語」に耐えて、それを寛容に認めて、英語が国際化されていった。

日本語の表記法は不安定である。
同じ文章を数人の人に書き取らせてみると、全く同じ答案が出てくる可能性はほとんどない。