死都ブリュージュ ローデンバック作

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ローデンバック 作
窪田般彌 訳
2012年2月16日 第9刷発行
 
ベルギーはフランドル地方の観光都市、ブリュージュを語る際に必ず出てくるこの作品。
長年気になっていたのですが、やっと読む機会に恵まれました。
この作品は1892年「フィガロ」誌に発表されましたそうです。
そのころにはローデンバックはベルギーを離れ、パリに定住していました。
この本のストーリーは、美しい妻に先立たれた苦しみに耐えかねてブリュージュにやってきた主人公が、街でその妻そっくりの女性を見かけて・・・というところから展開していきます。
主な登場人物としては、この男女と、主人公の家政婦、という感じでしょうか。
この家政婦は、敬虔なキリスト教信者で、ある程度のお金がたまればベギーヌ修道院に入るのを夢見ているような老婆です。
この家政婦が敬虔、信仰、神の側であるとすれば、妻そっくりの女性は、生の歓び、堕落、悪魔の側でしょうか。
この間を主人公が彷徨います。そしてその彷徨う場所がブリュージュとなるわけです。
このような物語には、まさしくブリュージュの街はぴったりです。
灰色の都、灰色の神秘、灰色の憂愁。
尼僧や司祭の服装、家々の正面の全体的な色。鐘の黒い歌の音も天空のなかでぼやけ、運河に跳ねて、波を打つ。
また街で繰り広げられる宗教祭礼や大聖堂、鐘楼など。
このような風土の奇蹟による相互浸透が、街全体の雰囲気を作り出して、見事な舞台を演出しています。
 
解説によると、この本自体はブリュージュではまことに評判が悪いそうです。まあ確かに「死都ブリュージュ」なんて言われると、イメージはあまりよくないかもしれませんが。
また作家の名前「ローデンバック」というのも、平均的ベルギー人にとっては酸味のある黒ビールと思われてしまうそうです。
ただ内容自体は、外からの観光客からすると、旅情をそそるものをなっています。
自分も12月にブリュージュを訪問したので、この憂愁の雰囲気は、なんとなくわかるような気がします。