ベルギーにゃんこのB-1グルメ②

「待て!」
屋台の奥から声がしました。
「親方!」
スマイリーを取り囲んでいた男たちが振り返ります。
親方と呼ばれた老人は、よろよろとみんなの前に進んでいきます。
「確かにわしらの焼きそばは、日本一にもなったことがある。しかしわしらの心の中でも慢心が出てきて、おざなりに作るようになってしまったのではないかな。このネコはちゃんとお見通しのようだな」
スマイリーは単に贅沢な舌の持ち主だから、ひねただけだったのですが・・・。
「どれ、久しぶりにわしが作ってみるとするか」と老人はつぶやきます。
「親方、お体は大丈夫ですかい?」と男たちは心配します。
親方はそれに答えず、無言でコテを持ち、面と具材とソースを準備します。
親方はどんどん、しゃんとしてきました。
そして最初はゆっくりした手つきで混ぜていましたが、次第にその両手の動きがどんどん速くなっていきます。
しまいには手の動きの早さに人間の目が追いつかないようになりました。
手の残像が残り、コテが太陽の光に反射するのに合わせて、神々しいまでの姿となりました。
「おお、これが親方秘伝の『千手観音炒め』だったのか・・・」
男たちは感心して目を見張ります。
おばあさんとスマイリー、そして周りのブリュッセルのお客さんまで驚くような料理の技でした。
こうして、程よく炒められた焼きそばが出来上がりました。
本当にいい匂いが、グランプラス中にたちこめています。
そして大盛りの焼きそばを紙皿に盛り、スマイリーの前に差し出しました。
「さあネコ君、食ってくれ」
周りはシーンとして、固唾を呑んでスマイリーを見つめます。
(続く)