ヘロドトスの「歴史」

歴史(上)
ヘロドトス 著
松平千秋 訳
岩波書店
2008年2月15日 第一刷発行

以前から、いわゆる歴史を語る上で、よく出てくるこのヘロドトスの「歴史」。
図書館の新発行書コーナーで、ワイド版を見かけたので読んでみることにした。
やはり当時は、神託や夢占いが権力者の行動規範になっていたようだが、逆に考えればそういったものを上手く利用した人が、権力者になっていったのかもしれない。
現代でも、占い師や霊能力者の人々の出るテレビ番組が高視聴率を稼いだり、星占いがいつも人気があったりしている。今も昔も人間はそのような見えない力には弱いものなのである。
今回この上巻の中から、面白いエピソードをあげてみたいと思う。

ペルシャ人の会議
当時のペルシャ人は、極めて重要な事柄を、酒を飲みながら相談する習慣がある。そして皆が賛成したら、翌日しらふのメンバーに対して再び提起し、それでも賛成なら採用で、そうでなければ廃案にする。また順序が逆になることもある。

これなどは、酒が入ってリラックスした時に本音を交わし、しらふの時にちゃんと検証するのが面白い。なんとなく日本のサラリーマン社会を思い起こさせるエピソードではある。

鳩の会話
今のギリシャ西部に、ドドネという町があったが、そこに人のことばを話す黒い鳩が現れた。そして神託所を造るようにいったと言う。これを人々は神の言葉と信じ、神託所を造った。これについて、ヘロドトスは、鳩が人の言葉を話すなどとはありえない、などとまっとうな意見をいい、もともと連れてこられた黒い肌のエジプト女性が、最初は異国語を喋っていたため周りからは鳩がさえずるように聞こえ、そのうちその女性たちが現地の言葉を覚え、周りの人たちも理解できるようになったためだ、という説をとなえている。

外国語が、鳩のさえずりに聞こえると言うのが、ロマンティックで異国情緒があり綺麗である。

エジプトの王アマシス
アマシスは、一介の市民に過ぎなかったが、権力を登りつめ王となった。ただの市民の時は、「憎まれっ子世にはばかる」の例らしくかなりワルだったようで、酒を飲み盗みを働くような事もよくあった。そのような場合、被害者は裁判所に訴えるように、当時は託宣所に訴えるのだが、彼の罪を認める託宣所もあれば、無実とする託宣所もあった。彼が王になってから、自分を盗賊とみなさなかった託宣所に対しては世話も寄進も参詣も行わなかった。逆に自分の罪を暴いた神は、これこそ誠の神であり、正しい託宣を出すものとして、極めて丁重にこれを扱った。

普通ワルが権力を握ると、過去自分を貶めしたところに逆恨みをしたくなるものだが、やはり神の手前ぐっとこらえ、逆に重宝したというのは、権力の維持のためには賢明で冷静な判断だと感じる。