会社のホストコンピューターの空間に入ったスマイリー、そこのシステムは頑丈に保護されており、食べれそうなものは何もありません。
「つまんないニャー」
スマイリーは不機嫌になり、丸まってしまいます。
そんなスマイリーの狭い額に、何かが当たります。
「ふにゃ?」
ふと見ると、小さな黒色の破片が、スマイリーに当たり下に落ちていました。
食い意地の張ったスマイリーにとっては、あたかもチョコチップに見えました。
思わずつまんで、もぐもぐ食べてみます。やはり見かけとおり、チョコレートの味がします。
はるかかなたを見ると、さらに何粒か同じようなチョコチップが飛んできます。
それらを全て捕まえ、もぐもぐ食べてしまうのでした・・・。
怪しいオフィスに戻ります。
そこでは男たちが首をひねっています。
「おかしいなあ。このウイルスが効かないわけがないんだが。どうもC社の入り口でブロックされているようだなあ。」
もう一人の男が渋い顔をして言います。
そうなんです。
食い意地の張ったスマイリーがチョコチップに見えたものは、コンピューターウイルスだったのです。
「おい、どうなってんだよ。このままじゃB社に対し面子が立たなくなるぞ。」
「大丈夫です。こんなこともあろうかと、通常のウイルスを集積した、最強のウイルス複合体を開発していますから。これを送信します」
男は力強くキーボードを打つのでした・・・。
さて、スマイリーはといえば、チョコチップを食べることができたのですが、まだ全然物足りません。
物欲しげに彼方を見てみると、今度は大きい物体が飛んできました。
よく見ると、それはチョコチップの集積体、つまりチョコレートケーキでした。
というか少なくとも、食い意地の張ったスマイリーにはそう見えました。
スマイリーの両目はハート型になり、口からは思わずよだれが出てきます。
そして飛んできた巨大なチョコレートケーキに、千秋楽結びの一番、横綱同士のぶつかりあいの如く、がしっと抱きつき、瞬く間にむしゃむしゃばくばく食べてしまうのでした・・・。
怪しいオフィスの男たちはあせっています。
「おい、最終兵器もきかないのか」
言われた男は、うなだれて言います。
「信じられない。あのウイルスがきかないとは。一体全体どんな保護装置をつけたんだ・・・」
われらのヒーロー、救世主の小太り猫スマイリー。
それでも彼は、C社の危機を救ったことなどは露知らず、仮想チョコレートケーキを平らげ、すっかり満足しました。
満腹のおなかを抱えながら、A子さんのパソコン内部へ戻り、深い深い眠りにつくのでした。
翌朝、出勤してきたA子さんは、パソコンのスイッチをONにし、デスクトップに写るスマイリーを見ます。
「スマイリー、おはよう」
にこっとして言いますが、写真のスマイリーが少し太ったように見えました。
少し怪訝な表情になりますが、「写真だからそんなことないわね。もともとデブだったから」と思い直します。
それでも彼女は気づきませんでした。
スマイリーの口の周りがチョコレート色になっていることは・・・。
(完)