デブ猫スマイリーのサイバー胃袋②

 会社のホストコンピューターの空間に入ったスマイリー、そこのシステムは頑丈に保護されており、食べれそうなものは何もありません。
 「つまんないニャー」
 スマイリーは不機嫌になり、丸まってしまいます。
 そんなスマイリーの狭い額に、何かが当たります。
「ふにゃ?」
 ふと見ると、小さな黒色の破片が、スマイリーに当たり下に落ちていました。
 食い意地の張ったスマイリーにとっては、あたかもチョコチップに見えました。
 思わずつまんで、もぐもぐ食べてみます。やはり見かけとおり、チョコレートの味がします。
 はるかかなたを見ると、さらに何粒か同じようなチョコチップが飛んできます。
 それらを全て捕まえ、もぐもぐ食べてしまうのでした・・・。
 
 怪しいオフィスに戻ります。
 そこでは男たちが首をひねっています。
 「おかしいなあ。このウイルスが効かないわけがないんだが。どうもC社の入り口でブロックされているようだなあ。」
 もう一人の男が渋い顔をして言います。
 そうなんです。
 食い意地の張ったスマイリーがチョコチップに見えたものは、コンピューターウイルスだったのです。
 「おい、どうなってんだよ。このままじゃB社に対し面子が立たなくなるぞ。」
 「大丈夫です。こんなこともあろうかと、通常のウイルスを集積した、最強のウイルス複合体を開発していますから。これを送信します」
男は力強くキーボードを打つのでした・・・。
 
 さて、スマイリーはといえば、チョコチップを食べることができたのですが、まだ全然物足りません。
 物欲しげに彼方を見てみると、今度は大きい物体が飛んできました。
 よく見ると、それはチョコチップの集積体、つまりチョコレートケーキでした。
 というか少なくとも、食い意地の張ったスマイリーにはそう見えました。
 スマイリーの両目はハート型になり、口からは思わずよだれが出てきます。
 そして飛んできた巨大なチョコレートケーキに、千秋楽結びの一番、横綱同士のぶつかりあいの如く、がしっと抱きつき、瞬く間にむしゃむしゃばくばく食べてしまうのでした・・・。
 
 怪しいオフィスの男たちはあせっています。
 「おい、最終兵器もきかないのか」
 言われた男は、うなだれて言います。
 「信じられない。あのウイルスがきかないとは。一体全体どんな保護装置をつけたんだ・・・」
 
 われらのヒーロー、救世主の小太り猫スマイリー。
 それでも彼は、C社の危機を救ったことなどは露知らず、仮想チョコレートケーキを平らげ、すっかり満足しました。
 満腹のおなかを抱えながら、A子さんのパソコン内部へ戻り、深い深い眠りにつくのでした。
 
 翌朝、出勤してきたA子さんは、パソコンのスイッチをONにし、デスクトップに写るスマイリーを見ます。
 「スマイリー、おはよう」
 にこっとして言いますが、写真のスマイリーが少し太ったように見えました。
 少し怪訝な表情になりますが、「写真だからそんなことないわね。もともとデブだったから」と思い直します。
 それでも彼女は気づきませんでした。
 スマイリーの口の周りがチョコレート色になっていることは・・・。
 
(完)