播磨文学紀行 より 田山花袋

播磨文学紀行より

花袋に持つイメージは、明治を代表する自然主義作家であり、代表作は「蒲団」というのが普通で、旅行案内を書いたとは考えにくい。
ところが、本当は生涯を旅で過ごし、旅行をもっとも楽しんだ作家が花袋だったのである。
花袋の紀行文学は、全三巻の「紀行集」に代表されるよう数多い。
「日本名勝地誌」「新撰名勝地誌」「日本一周」など全国をくまなく歩いている。
播磨にも再三訪れて、そのたびに新しい発見を繰り返し、文集にまとめた。
若い頃から旅が好きだった花袋は、外国人が使う案内書が欲しいと思った。そして、それに近い紀行文を作ろうと考えたという。

民俗学と紀行文学と目的は違ったが、同じ旅を続けた花袋と柳田國男は、歌の師・松浦辰男のところで知り合う。
花袋は、姫路を訪れたついでに播但線に乗る。國男のふるさとを見ておきたかったのだろう。

姫路・岡山・廣島―地形が似ている。南に海を控へて、北に山を帯びてゐる。そしてその市街のあるところは小さな狭い平野である。従って丘陵がすぐ町の後にまで迫って来てゐる。この三つの市街の中では、私は一番姫路が好きだ。第一、姫路は嵐氣に富んでゐる。
(日本一周・中編 より)

姫路に立ち寄った花袋は、白鷺城や射楯兵主神社(総社)、広峰神社、随願寺、芭蕉の蓑塚などを回って書写山へ向かった。圓教寺では母子二人連れの巡礼に会う。