色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年(断片的なネタバレ注意)

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色彩を持たない
多崎つくると、
彼の巡礼の年
 
文藝春秋 発行
2013年4月22日 第3刷発行
 
簡略な相関図
 
                       沙羅
                        |
          緑川 ― 灰田 ― つくる――――アオ
                 |           |
                 |           |―アカ
                 |           |
                 |           |―クロ
                 |           |
                 |―――――――――シロ
 
この物語を支配しているのは、結局沙羅
つくるはスパイ大作戦の指令を受けるかのように、彼女に勧められ、昔自分を切った友人たちと再会する。
それはあたかもle mal de pays 田園の憂鬱に飛び込む巡礼のようだった。
出会った人々、話に出てきた人は、そんな「つくる」というキャンバスに前衛画家のように色をぶちまけていく。
半分冗談で言えば、つくるは、水をぶっ掛けられたり、いろいろいじられても微妙に表情を変えながら耐えるハナ肇さんの銅像(笑)のようなものだったかもしれない。
学生時代、傷ついたつくるの下絵となったような「灰」田。
彼から聞いた「緑」川というジャズピアニスト。六本指の謎にも絡んでくる。
そして名古屋とフィンランドで、赤、青、黒、そして白も?、つくるというキャンバスを彩っていった。
そして最後には謎を投げかけて、謎を残して終わる。
 
ちなみに赤、青、黒、白、緑という色は、アルトゥール・ランボーの「母音」という詩にも勢ぞろいする。
 
Aは黒、Eは白、Iは赤、U緑、O青よ、母音らよ、
何時の日かわれ語らばや、人知れず君らが生い立ちを。
(以下略。堀口大學 訳)
 
今回、おれという一人称が頻繁に使われていました。
それにしても、ローリングサンダースライド方式(勝手な造語。感じだけで解釈してください)で謎を含ませながらどんどん話を進めていく手法はいつもながらお見事。本当に基礎体力、足腰のしっかりしている作家なんだろうと思ってしまいます。