ベジタリアンスマイリーの大騒動④

少し遅れて、子犬のフィーフィーの鼻のおかげもあり、Fちゃんたちもグランプラスに入ってきました。
しかしここで完全に見失ってしまいました。
よく見ると、ここグランプラスには野菜の食中毒の風評被害に対し、EU各国から来た農民がデモをするために集まっていたのでした。
「それではみんな、今からシュプレヒコールを行います!」
とリーダーの男が呼びかけます。
「野菜の風評被害を政府は防げ!」
「農民に対する補償をしろ!」
農民たちによるシュプレヒコールが広場に響き渡ります。
とすると、突然みんなの頭の上から、タイミングよくカラーン、コローンと鐘の音が響き渡りました。
広場の人たちがいっせいに鐘楼に目をやります。
とすると、揺れる鐘にしがみつく、白い小太りの猫がいました。
「あっ、スマイリーだ!」
Fちゃんが大きな声を上げて指差します。
 
スマイリーは鐘楼の一番上に登って、更に鐘をならす一連の装置のところまで行けば追っかけてこないと思い、大きな鐘に飛び移っていました。
それでも鐘にはつかむところもなく、必死でジタバタしがみついていると、鐘も揺れてしまい、休止中の鐘を鳴らしてしまったのでした。
でもちょうどシュプレヒコールのタイミングにあい、デモを更に盛り上げて、より注目を浴びるようにしてしまいました。
スマイリーは鐘と一緒にグラングラン揺れ続け、デモ隊はますます盛り上がり、Fちゃんたちは唖然としています。
そんな中、保健所の人ははっと気付き、「早くあの猫を捕まえないと、健康被害が心配だ」と鐘楼へ上ろうとします。
そこへデモの参加者が立ちふさがります。
「折角あの猫が我々のデモを盛り上げてくれているのだから、そのままにしてくれないか」
保健所所員は「いや、あの猫は食中毒検査用のサンプルの野菜を全部食べてしまったんだ。だから早く捕まえるため、ブリュッセル市内中走り回って、やっとここまで追い詰めたんだ」
というと、デモの参加者は
「いや、そんだけ走って、なおかつ今もバタバタ動き回っているところから見ると、全然健康被害はなく、元気いっぱいじゃないか」
と必死に鐘にしがみつき、ジタバタしているスマイリーを指差し、笑いながら答えます。
「それもそうだな・・・」と所員も妙に納得してしまったのでした。
 
 
このグランプラスでの騒動から約二ヵ月後、Fちゃん夫婦は自宅で夕食をとりながら喋っています。
「それにしてもスマイリーには参ったよな。あんなことされると、ブリュッセル市当局からこっぴどく叱られると覚悟していたんだけどなあ・・・」
「幸いEUの農民を支持基盤に持つ議員さんがとりなしてくれて、なにもお咎めなしだったわね」
「それどころか、デモの参加者の農民たちがスマイリーを気に入ってくれて、わざわざ野菜を家に送ってくれるようになったなあ」
結局ヨーロッパの野菜も害がないことがわかり、風評被害も収まり、テーブルの上は、新鮮な野菜サラダで一杯です。
「更に、デモのリーダーがフランス南部でワイナリーを経営していて、ワインまで送ってくれてるわね」
と、テーブルの上のワインを指差します。
そしてそのラベルには、大きな鐘にしがみつく、白い小太りの猫が・・・。
「ちょうど新しいラベルを考えていたときに、スマイリーの事件があって、猫と鐘は幸運を導くに違いない、と思って、採用してくれたのね」
そう、スマイリーはその活躍?が認められ、ワインのラベルの図柄になり、その勇姿?が世界中に広まったのでした・・・。
 
(完)